碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【気まぐれ写真館】 「立秋」の月

2022年08月07日 | 気まぐれ写真館

2022.08.07


【旧書回想】  2020年9月前期の書評から

2022年08月07日 | 書評した本たち

 

 

【旧書回想】

週刊新潮に寄稿した

2020年9月前期の書評から

 

 

山極寿一『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』

家の光協会 1430円

霊長類学者でゴリラ研究の泰斗によるエッセイ集だ。人生を砂場で学んだ人や、泥酔に学んだ人はいるが、ゴリラから教わったのは著者だけだろう。たとえば、ゴリラの父親は「えこひいき」をせずに子どもを叱り、そして守る。またゴリラは「個性は言葉では説明できない」ことを教えてくれる。「相手の行動がすべて」なのだ。京都大学総長でもある著者にとって、キャンパスは熱帯のジャングルか。(2020.08.20発行)

 

落合正範『力石徹のモデルになった男~天才空手家 山崎照朝』

東京新聞 1650円

ちばてつやの漫画『あしたのジョー』に、力石徹が初めて登場したのは『週刊少年マガジン』1968年6月2日号。生みの親は原作者の高森朝雄(梶原一騎)だ。モデルは大山倍達が主宰する「極真会」の黒帯、山崎照朝だった。大山が強さを認め、梶原が愛した山崎とはどんな男だったのか。群れない。金も名声もいらない。ただ強くなることだけを目指した、孤高の空手家の実像に迫る力作評伝だ。(2020.08.29発行)

 

安野光雅『私捨悟入』

朝日新聞出版 1760円

94歳の著者は『旅の絵本』などで知られる画家。『算私語録』シリーズをはじめとする軽妙なエッセイも多い。本書には317の短文が並ぶが、ふと思ったこと、感じたことが簡潔に述べられていく。テレビCMが痛快でないのは「自慢に尽きる」から。また昨日まで絵と思わなかったものを「絵ということにした」のがピカソの凄さだ。各文の頭に「子曰く」と置きたい、安野版『論語』である。(2020.08.30発行)

 

鴻上尚史、佐藤直樹『同調圧力~日本社会はなぜ息苦しいのか』

講談社現代新書 924円

劇作家の鴻上は言う。「同調圧力」とは「みんな同じに」という命令だ。多数派や主流派の集団による「空気に従え」という無言の命令である。その背景には「世間」という日本的システムがある。鴻上は世間学が専門の佐藤と共にコロナ禍で露呈した世間と同調圧力の正体を探っていく。相互監視の日常。正義が氾濫するネット。多様性の否定。「不寛容の時代」を生き抜くための指南書である。(2020.08.20発行)

 

チャック・へディックス:著、川嶋文丸:訳

『バード~チャーリー・パーカーの人生と音楽』

シンコーミュージック・エンタテイメント 2750円

「バード」の愛称をもつ天才サックス奏者、チャーリー・パーカー。生誕100年を記念する最新評伝だ。1940年代半ば、バードはビバップというジャズ革命を起こした。亡くなったのは55年。まだ34歳だった。全盛期のバードはヘロインを打てば打つほど演奏がすばらしくなり、いつまでもソロを吹きつづけたという。そんな伝説も含め、資料調査と徹底検証によって描かれる新たなバード像だ。(2020.09.01発行)

 

斎藤美奈子『中古典のすすめ』

紀伊國屋書店 1870円

中古典は著者の造語で「古典未満の中途半端に古いベストセラー」のことだ。登場するのは60年代から90年代初頭にかけて出版され、話題を呼んだ48冊。たとえば住井すゑ『橋のない川』(61年)は「いまだからこそ効くストレートパンチ」だが、イザヤ・ベンダサン『日本人とユダヤ人』(70年)は「みんなだまされた怪評論」と手厳しい。強気の80年代、地味な90年代と中古典は時代も映し出す。(2020.09.10発行)