碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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「GOETHE(ゲーテ)」倉本聰さんへのインタビュー(3)

2022年08月04日 | 本・新聞・雑誌・活字

photo by H.Usui

 

 

【独占インタビュー】

87歳・倉本 聰は、

なぜ60年以上も書き続けられるのか?

(3)

 

本当に死にたくなった。鬱がひどかった時期

これまで何十年間も、倉本は膨大な数の作品を書いてきた。だが、時には筆が進まないこともあったのではないか。

「ありますよ。何度か鬱にもなったしね。特に富良野に来てからのある時期がひどかった。毎晩、自殺したくて仕方なかった。そんな時、中島みゆきが新しいアルバムのパイロット版を送ってくれたの。それが『生きていてもいいですか』。『異国』とか、『うらみ・ます』とか、名曲揃いのアルバムで、最高傑作だと思うんだけど、とにかく暗い(笑)。夜、ひとりで酒を飲みながら聴いてたら本当に死にたくなった。 ちょうど冬場でね、表はマイナス28℃とか30℃とかだったから、睡眠薬飲んで、ジープの中に入って寝ちゃえば死ねるなと思った。で、うちの玄関って二重扉になってて、風除室があるんだけど、そこで犬飼ってたわけ、北海道犬を。ヤマグチという名前の犬で、山口百恵ちゃんから取って。そのヤマグチが、外に出ようとする僕の上着の端を咥えて、引っ張るんですよ。なんか異様な顔して。それで僕、ハッと我に返った。つまり、山口百恵という生き神と、中島みゆきという死に神が綱引きした結果、何とか生き延びたってわけです(笑)。 それで精神科医の診断を受けたらね、『この季節になると毎年、鬱が出ますよ』と言われた。ところが、春になったらストンとなくなったの。翌年も出なかった。その理由だけどね、ここの自然が僕の入植を許してくれた、受け入れてくれたんだなと思った。無理に抵抗するんじゃなくて、自分を投げだすというか、自然に身を委ねたのがよかったのかもしれない」

そんな倉本も世の中に対して腹を立てたり、憤ったりすることは少なくないはずだ。以前、怒りが書くためのエネルギーになるとも語っていた。

 「怒りをエネルギーにするんだけど、書くというのは非常に冷静な作業ですからね。怒ったままじゃ書けない。だから、怒りを一度心の中に落としこむ。自分を抑えてクールダウンする。僕の場合、そんな『間(ま)』を入れる方法がタバコでしょうね。 本質的な気分転換をするには、それぞれのやり方があると思うんだ。でもね、タバコが流行ってた時代のほうが、今よりも平和だったんじゃないか。タバコがなくなってから、みんなイラつき始めたんじゃないかって気がしてしょうがない。 昔もね、煙が迷惑な人もいたでしょうけど、迷惑ってことを言い広げたのは医者なのね。そんなことを皆に気づかせなければ、今みたいな忌避反応は起きなかったはずで、社会を住みにくくしたのは医者だよね(笑)」

<「GOETHE(ゲーテ)」2022年8月号より>