碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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夏ドラマが描く、働く女性たちの「現在」

2022年08月09日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

夏ドラマが描く、

働く女性たちの「現在」

 

猛暑の中、夏ドラマが出そろった。傾向としては“働く女性”の活躍が目立っている。

まず、「競争の番人」(フジテレビ-UHB)では、元刑事の白熊楓(杏)が異動先の公正取引委員会で、審査官の小勝負勉(坂口健太郎)とコンビを組んでいる。地味な組織だが、企業の「ズル」を許さない役割を果たしているのが公取委だ。

自分のペースで仕事を進める小勝負に、やや振り回され気味の楓。しかし、その正義感と行動力は小勝負との組み合わせに生かされており、新機軸のサスペンスドラマを盛り上げている。複数のホテル間で行われていた、ウエディング費用のカルテルを突き崩した最初のエピソードも見応えがあった。

次は「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」(TBS-HBC)だ。石田硝子(有村架純)は弁護士の業務を助ける、東大卒のパラリーガル。高卒で弁護士資格を持つ羽根岡佳男(中村倫也)をサポートしている。

普通の人が日常生活の中でトラブルに遭遇したとき、頼りになるのが近所の町医者のような弁護士、マチベンである。2人が扱うのも、自動車販売会社での社内いじめや、小学生がゲームに多額のお金を使った騒動などだ。

しかも、出来事の奥にある社会問題に触れているのがこのドラマの特徴だ。それが企業のパワハラ問題だったり、教育格差の問題だったりする。これまでのところ硝子の活動が限定的で存在感が薄いことが残念だ。有村と中村の役柄が逆でもよかったかもしれない。

さらに、女性の“仕事ドラマ”として健闘しているのが、「魔法のリノベ」(カンテレ制作・フジテレビ系―UHB)だ。今年の春クールに放送されていた「正直不動産」(NHK)が、家という大きな買い物にまつわる具体的なエピソードを、ユーモアを交えて描いていた。同じような傾向のドラマかと思っていたが、ひと味違うものになっている。

現在の建物に新たな機能や価値を加えて、より暮らしやすくするのが「リノベーション」だ。新築に比べたら桁が違うとはいえ、住人にとっては小さくない負担となる。だからこそ会社の利益や自分の業績よりも、依頼人の思いを優先して最適の提案をする、主人公の真行寺小梅(波瑠)に好感が持てるのだ。

3本のドラマに共通する要望がある。現実社会で働く女性たちが抱えている困難を、もう少し物語に取り込んでくれないだろうか。単なる個人の問題でも、女性だけの問題でもないことを伝える必要があるからだ。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2022.08.06)