【新刊書評2023】
週刊新潮に寄稿した
2023年2月後期の書評から
伏尾美紀『数学の女王』
講談社 1925円
乱歩賞受賞作『北緯43度のコールドケース』の続編にして受賞後第1作である。主人公は前作同様、博士号を持つ北海道警察のノンキャリア警察官、沢村依理子だ。ある日、新設された理系大学で爆弾による殺傷事件が起きる。犯人の狙いが曖昧ないまま、班長として捜査にあたる沢村。かつて自身も博士課程にまで進んだ彼女の目に、「研究者」という特異な世界に広がる闇が徐々に見えてくる。(2023.01.23発行)
古川真宏『エゴン・シーレ~鏡のなかの自画像』
平凡社 2420円
暴力的とも言える表現がーレの特徴だ。それは残された数多くの自画像でも変わらない。独特の線描と激しい筆致の着彩。生と性、死というテーマもそこにある。画家の自意識が映し出されている自画像。精神分析理論による解釈も含め、自画像の観点から「夭折の画家シーレ」に迫ったのが本書だ。ちなみに「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展」が、東京都美術館で4月9日まで開催されている。(2023.01.25発行)
武田砂鉄『父ではありませんが~第三者として考える』
集英社 1760円
著者は『紋切型社会』などで知られるライター。社会的事象を冷静な目線で語るコラムに定評がある。本書のテーマは、父親ではない人間が考える「親・子・家族」だ。子どもについて、「いない」「できない」「ほしくない」という立場からの声はなぜ上げ辛いのか。「あるべき家族の形」の呪縛。子どもに象徴される「加算されていく人生」への迷いや疑い。いわゆる「普通」とは何かを考える。(2023.01.31発行)
ひのまどか
『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 バーンスタイン』
ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス 1760円
『ウエスト・サイド物語』などで知られるレナード・バーンスタイン。ベートーヴェンやモーツアルトと並んで現代の音楽家も登場する伝記シリーズだ。指揮棒を使わないことで話題となった若き日。急病のブルーノ・ワルターの代わりを務めれば、彼の動きは音楽そのものだった。一方でその指揮を嫌う批評家たちとの闘いが続いた。豊富なエピソードで甦るのは、稀代の指揮者・作曲家の実像だ。(2023.02.10発行)
養老孟司『ものがわかるということ』
祥伝社 1760円
「ものがわかる」とはどういうことなのか。そんな普段は考えたこともないことを考えさせてくれる一冊だ。知るとは自分が変わること。その自分は探すものではなく創るものである。他者の心を理解するには、「相手の立場だったら」と考えてみることだと著者は言う。そして「わかる」ためには意識や理性を外す必要がある。理系の知識と論理を足場にした、悠々たる禅問答のような語り口を楽しむ。(2023.02.10発行)
近田春夫『グループサウンズ』
文春新書 990円
エレキギターを軸にした数人編成のバンドがグループサウンズ(GS)だ。ブームは1965年から69年にかけてで、ピークは63年。ザ・スパイダース、ブルー・コメッツ、ザ・タイガース、ザ・テンプターズなどが活躍した。本書は近田春夫が語るGS論だ。どこが新しく、何がファンを熱狂させ、なぜ消えていったのか。日本のGSはザ・ビートルズに影響されたムーブメントという“定説”も覆される。(2023.02.20発行)