市川猿之助&永山絢斗出演作品
NHK「配信停止」解除の大英断
父親と母親への自殺幇助の疑いで逮捕されている歌舞伎俳優の市川猿之助(本名・喜熨斗孝彦)容疑者(47)が過去に出演していた番組が配信停止になっていた件で、NHKの山名啓雄メディア総局長は、配信停止を撤回すると明らかにした。
山名局長は、26日に行われた定例会見で、「できるだけ速やかに配信を再開する」とコメント。「作品に罪はない」「有料の動画サービスなのでその番組を見るかは利用者が判断すべき」など、配信停止に関して1000件以上の批判の声があったという。
猿之助容疑者の出演作品をめぐっては、NHKは先月末、有料動画サービス「NHKオンデマンド」で配信されていた大河ドラマ「風林火山」「龍馬伝」「鎌倉殿の13人」などの8作品について7月1日午後11時59分をもって終了すると発表していた。
メディア文化評論家の碓井広義氏はこう話す。
「今回のケースでは、猿之助容疑者ひとりのために、すべての作品が見られなくなり、視聴者の利益が大きく損なわれていると感じていましたから、僕はいいのではないかと考えます。NHKは当初、とりあえず配信停止という措置をとりましたが、世論に動かされた部分もあったと思います」
たしかにSNS上では、猿之助容疑者の逮捕翌日の“一括配信停止”で、多くの作品が視聴できなくなることへの悲鳴の声や配信停止を疑問視する声があがっていた。
見る見ないを選択できる自由
また6月に大麻取締法違反容疑で逮捕・起訴された永山絢斗被告(34)が出演していた朝ドラ「べっぴんさん」も配信停止となっていたが、こちらも配信を再開する予定だという。山名局長は、「今後、NHKオンデマンドにおいては、原則、一部の出演者の逮捕での配信停止は行わない」と言明。ただし、「事案によっては総合的な判断で例外的に停止する可能性はある」とした。
碓井氏が続ける。
「この問題はなかなか難しくて、当然、ドラマや映画はたくさんの人が出演していますので、その中のひとりが何か問題を起こした場合、一律にそれを止めてしまっていいのかという議論はあってしかるべきだと思います。しかし、その時々で個別に判断をしていかざるを得ない。例えば直近の主演作や犯罪を彷彿とさせる作品などの場合は、状況が明るみに出るまでは判断を保留せざるを得ないケースもあるでしょう。ただし、今回の例でいえば、大河ドラマなど過去の作品であるわけで、それについては、見られるようにしてもいいのではないかと思います」
さらに、テレビやラジオなど誰の目にも触れるメディアと違って、映画など、視聴者が納得してお金を払って選択して見るものはいいのではないかという議論もある。
「動画配信サービスも、お金を払って自分から見に行くものなので、『猿之助が出ているので自分は見ない』と判断する自由は担保されているので、映画などと同様でしょう」(碓井氏)
視聴者にとっては、“見る見ないを選択できる自由”があった上で、作品が残されていることはやはり大切。今回、NHKの英断といえるだろう。同様に、猿之助作品を配信停止にしている民放の動画配信サービスもこれに追随すると思われる。
(日刊ゲンダイ 2023.07.29)