碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2023】泉麻人『昭和50年代東京日記』ほか

2023年12月08日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

泉 麻人『昭和50年代東京日記~city boysの時代』

平凡社 2420円

1970年代や80年代には何らかのイメージが浮かぶ。しかし「昭和50年代」となると、どこか心もとない。著者にとっては1975年の大学入学で始まり、社員編集者を経て退社に至る10年間だ。本書に登場するのは雑誌「宝島」、荒井由実、村上龍、つかこうへい、ウオークマン、田中康夫、ザ・ぼんち、「愛のコリーダ」、東京ディズニーランドなど。個人史であると同時に若者文化の同時代記録だ。(2023.09.20発行)

 

本の雑誌編集部:編

『本の雑誌の目黒考二・北上次郎・藤代三郎』

本の雑誌社 3300円

今年1月に76歳で亡くなった目黒考二。椎名誠とともに「本の雑誌」を創刊したのは1976年だ。編集者で読書家の目黒はまた、文芸評論家・北上次郎であり、競馬エッセイスト・藤代三郎でもあった。本書は3人のメモリアルブックだ。当人たちの傑作選だけでなく、多彩な執筆者による追悼文や回顧の座談会が並ぶ。何よりも本を読むことが好きで、ひたすら本について書き続けた男の後ろ姿に合掌。(2023.09.25発行)

 

朝日新聞将棋取材班『藤井聡太のいる時代 最年少名人への道』

朝日新聞出版 1650円

10月11日、藤井聡太は王座を獲得すると同時に史上初の「八冠」を達成した。本書は今年6月に名人となるまでの軌跡を追った同時進行ドキュメントだ。谷川浩司との「新旧天才の激闘」。最年少で手にした初タイトル。巨星・羽生善治との「大一番」。そして名人位への挑戦。「なぜ、ここまで強くなったのか」の謎を探り、藤井が見せる「将棋の奥深さと人間の可能性」にまで迫っていく。(2023.09.30発行)

 

花村萬月『たった独りのための小説教室』

集英社 2200円

小説指南の書物は数多い。しかし現役作家がここまで本気で、そして本音で語ったものは珍しい。曰く「オチ、いらないんですよ」。なぜなら虚構が本来孕む「整合性」が結末をつけてくれるからだ。排除すべきは詐欺的な「偶然」だという。また必要なのは文章のセンスではなく、虚構をつくりあげるセンス。必須なのは「書くことがある」ことだと説く。安易に小説家を目指してはいけない。(2023.09.30発行)

【週刊新潮 2023.11.16号】