2023.12.29
「週刊新潮」に寄稿した書評です。
横尾忠則『死後を生きる生き方』
集英社新書 1210円
著者によれば、本書は我流の「死論」であり、「死の哲学」である。生の側から死を臨むのではなく、死の側から生を見る視点がユニークだ。基盤となっているのは、著者が「輪廻転生」を信じていること。そこには、未完で生まれた人間が完成を目指して今生を生き、未完のまま生涯を終えるという覚悟がある。だからこそ自分自身に従い、自分に忠実に生きるのだ。87歳の著者がそれを体現している。(2023.10.22発行)
山本直人『亀井勝一郎~言葉は精神の脈搏である』
ミネルヴァ書房 4180円
『大和古寺風物誌』の刊行から80年。批評家・亀井勝一郎の人生は起伏に富んでいる。昭和3年、治安維持法違反容疑で逮捕。そして転向。“古典日本”という新たな幻影を創造し、戦後は「文学者の戦争責任」を問われた。本書は「新しい戦前」とも呼ばれる今の時代に登場した本格評伝であり、昭和の動乱期を目の当たりにしてきた知識人の精神史だ。亀井の再評価にも繋がりそうな労作である。(2023.10.10発行)
電通PRコンサルティング:著
『企業ミュージアムへようこそ~PR資産としての魅力と可能性(上巻)』
時事通信社 1540円
「企業ミュージアム」とは自社の事業や属する産業をテーマとした博物館。国内には200を超える施設が存在する。本書には“経営の神様“の経営観や人生観に触れる「パナソニックミュージアム」、日本の魔法瓶の歴史がわかる「まほうびん記念館」など16のユニークな展示が並ぶ。単なる社史ではなく日本の近現代史をつくった人たちの足跡でもある。知恵の宝庫を訪ねる小さな旅も悪くない。(2023.10.16発行)
ジャック・アタリ:著、林昌宏:訳
『世界の取扱説明書―理解する、予測する、行動する、保護する』
プレジデント社 2970円
世界的知性が2050年の近未来を予測する。政治、経済、文化など「歴史」のあらゆる側面を研究することで、「世界の仕組み」を見出すことが可能だと著者。そこには3つの脅威が待つという。気候変動、国境が変わる超紛争、そして情報や権力の人工化だ。では今の自分に何ができるか。学ぶこと、予見すること、その上で行動することだ。「サービスの工業化社会」の先にあるものを知る。(2023.10.17発行)
【週刊新潮 2023年12月7日号】