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東京新聞の連載コラム「言いたい放談」。
今回は、テレビ60年をめぐる動きを見ながら、思っていたことを書かせてもらいました。
テレビをなつかしむ資格
一九七五(昭和五十)年三月二十九日の夜、フジテレビが2クールにわたって放送してきたドラマ『6羽のかもめ』が終わった。脚本は倉本聰さん。最終回のタイトルは「さらばテレビジョン」だ。
劇中劇では、政府が国民の知的レベルを下げるという理由でテレビ禁止令を出す。終盤、山崎努演じる放送作家がカメラに向かって自分の思いをぶつける場面があり、伝説の名せりふが繰り出された。
「だがな一つだけ言っとくことがある。(カメラの方を指さす)あんた!テレビの仕事をしていたくせに、本気でテレビを愛さなかったあんた!(別を指さす)あんた!――テレビを金儲けとしてしか考えなかったあんた!(指さす)あんた!よくすることを考えもせず偉そうに批判ばかりしていたあんた!あんた!!
あんたたちにこれだけは言っとくぞ!何年たってもあんたたちはテレビを決してなつかしんではいけない。あの頃はよかった、今にして思えばあの頃テレビは面白かったなどと、後になってそういうことだけは言うな。お前らにそれを言う資格はない。なつかしむ資格のあるものは、あの頃懸命にあの情況の中で、テレビを愛し、闘ったことのある奴。それから視聴者――愉しんでいた人たち」
今月、テレビは六十歳を迎え還暦の祝いで賑やかだが、倉本さんが放った矢は私たちを射抜いたままだ。
(東京新聞 2013.02.06)