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東京新聞に連載しているコラム「言いたい放談」。
今回が年内ラストとなるため、いくつかのジャンルで選んだマイベストについて書きました。
2012年のマイベスト
年末の新聞や雑誌で見かける「今年のベストテン」。それにならって、独断と偏見のマイベストを選んでみた。
まずドラマでは、TBS・WOWOW共同制作の「ダブルフェイス」を挙げたい。ヤクザ組織に潜入している刑事(西島秀俊)と警察内部に潜むスパイ(香川照之)。二人の綱渡りのような生き方から片時も目が離せなかった。テレビドラマがここまで表現できるという意欲作だ。
次に洋画から一本を選ぶなら、クリント・イーストウッド主演「人生の特等席」だろうか。視力の衰えた老スカウトマンとその娘の物語だ。人生の引き際をどう迎えるか。次の世代に何かを託す勇気を教えてくれた。
邦画では西川美和監督の「夢売るふたり」だ。結婚詐欺を仕掛ける人妻(松たか子)が見せる、女性の強さと怖さに鳥肌が立つ。舞台「ジェーン・エア」もそうだったが、女優・松たか子の存在感が半端ではない。
年間約二五〇冊分の書評を週刊誌に書いているが、“今年の一冊”は小熊英二「社会を変えるには」(講談社現代新書)である。
最初に戦後の歩みと社会運動の歴史を思想的に解説する。さらに民主主義や自由主義の価値や限界を考え、「社会を変える」ことがいかにすれば可能かを探っていくのだ。運動を人間の表現行為、社会を作る行為として捉える視点が多くの示唆に富んでいた。
(東京新聞 2012.12.26)