【巨匠・倉本聰の言葉に学ぶ人生のヒント】
第2回
大切なのは「受信力」
倉本聰がシナリオを学び始めたのは、東大受験に失敗した後の浪人時代だ。最初の勉強は、喫茶店に座って隣のカップルの会話を盗聴することだった。いや、喫茶店だけでなく電車の中など他の場所でも、人の会話を盗み聴くということがスタートだったと言う。
「物書きの仕事で大事なことは、書くこと、つまり発信することじゃなくて、受信すること、受信力だと思ってるんですよ。受信というのは要するに五感―視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚のすべてを動員して、あらゆる現象を盗み取って吸収するということですよね。
人は他人の言うことや、他人が書いたものを吸収して、それで受信したと錯覚しがちなんだけど、それは聴覚や視覚のみの受信でね、真の受信の半分にも達してないという気がするんです。
というのは、人の喋りや書く文章にはね、虚飾とかホラとか自己顕示とか、そういったものが必ず交じっちゃってるわけですよ。そういうものを見抜くためには、まず書いた人や言った人の人間性を見抜かなくちゃいけない」(「脚本力」より)
仕事をする上で、アウトプットのことばかり気にする人は少なくない。しかし、その前にインプットがあり、受信力が必要だと言う。一瞬、自分を無にすることでアンテナを研ぎ澄ませ、溢れる情報の中から本当に大事なものだけを吸収するのだ。
(日刊ゲンダイ 2022.11.17)