「週刊新潮」に寄稿した書評です。
「期間限定」の不安にたじろぐ人へ
嵐山光三郎
『爺の流儀』
ワニブックスPLUS新書 1045円
思えば、青年期や壮年期は「その先」を前提に歩み方を考えることが出来た。一方、老年期はいつ終わるとも知れぬ「期間限定」だ。その不安の前でたじろぐ人も少なくないだろう。
書店には老人の生き方指南といった書籍が溢れている。だが、「人生これから」と煽ったり、逆に達観し過ぎていたりと、納得のいくものが見つからない。
その点、嵐山光三郎『爺の流儀』は、「それでいいんだ」とホッとさせてくれる。
まず、著者のスタンスがいい。子どもがすくすくと成長するように、老人はすくすくと老いていくもの。だから「年をとったら、ヨロヨロと下り坂を楽しめばいい」と言い切る。
提唱するのは「老いの流儀十カ条」だ。いくつか挙げると、面倒だから弁解しない。議論は時間の無駄。とはいえ、悟ることなく、いらだって生きる。
自分本位の意地だが、孤立を恐れたりしない。その上でチャランポランと時の流れに身をゆだねる。これなら自分なりの応用も可能だ。
著者は流儀の先達も紹介している。たとえば谷崎潤一郎は、肉体が衰えていく後半生をなだめながら、うまくコントロールした達人だ。
「瘋癲老人日記」は70代の作品だが、こう書いている。「死を考えない日はないが、それは必ずしも恐怖をともなわず幾分楽しくさえある」と。この境地に達したら怖いものはない。
ちなみに著者の好きな言葉は、「諸行無常」と「死ねば、いい人」だ。これまた、どこか癒される。
(週刊新潮 2025.03.13号)