国産アニメの100年をコンパクトに俯瞰する
津堅信之
『日本アニメ史~手塚治虫、宮崎駿、
庵野秀明、新海誠らの100年』
中公新書 1034円
津堅信之は『新版アニメーション学入門』『新海誠の世界を旅する』などを著してきたアニメーション研究家だ。
造詣の深さと明快な語り口は、新著『日本アニメ史~手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年』でも存分に生かされている。コンパクトでありながら、進化の軌跡を的確に把握できるのだ。
黎明期である大正時代から戦前・戦後までの流れも興味深いが、手塚治虫の『鉄腕アトム』(1963年)に始まる重要作品列伝が実に熱い。
『機動戦士ガンダム』(79年)、『風の谷のナウシカ』(84年)、そして『新世紀エヴァンゲリオン』(95年)などだ。
著者はこれらの作品の何が新しく、時代の壁をどう打ち破ったのかを指摘していく。
たとえば宮崎駿の『ナウシカ』は、現代的かつ社会性の強いストーリーで世界を驚かせた。
また庵野秀明の『エヴァ』は、テレビアニメから年少の視聴者を切り離してブームを作り、アニメビジネスの形態まで変えてしまった。
さらに、『君の名は。』(2016年)などの新海誠にも注目する。特色は人物よりも圧倒的な風景描写で物語を牽引することだ。
一方で、人物はモノローグ(独白)で心の動きや変化を伝えていく。その合わせ技に独創性があった。
著者によれば、『エヴァ』以降の四半世紀は「日本のアニメの方向性を根本的に変えるような事象は起きていない」。
だからこそ、未知なる作品への期待が高まってくるのだ。
(週刊新潮 2022.06.09号)