今こそ!見たい
医療ドラマ
強烈な主人公にドキドキ
医療ドラマといえば、刑事ドラマと並ぶ2大テーマです。生と死を扱い、医療現場のリアリティーを追求したものから、個人と組織との対立を描いたものまで様々です。また、恋愛や時代劇の要素が入ったものもあります。みなさんの「イチオシ医療ドラマ」は何ですか?
数ある医療ドラマの中で1位に輝いたのは「白い巨塔」。山崎豊子さんの同名の小説を元に、1960年代から何度もドラマ化、映画化された。大学病院を舞台に、権力を追い求める外科医・財前五郎と、人の命を無欲で救い続ける内科医・里見脩二の対照的な2人の生きざまや組織の暗部を描いている。
何人もの俳優が主役を演じてきたが、「田宮二郎派」と「唐沢寿明派」に分かれた。田宮派は「視聴者にとってはたまらなく魅力的なヒール・財前五郎のハマり役っぷりに後進の俳優さんたちは歯が立ちません。田宮さんが財前の中に息づいているのです」(兵庫、56歳女性)。一方の唐沢派。「唐沢さんの財前教授は、すごい演技だと思う。毎週ゾクゾク、ドキドキして見ていた」(奈良、48歳女性)
2位の「JIN―仁―」は、現代の医療知識と技をもったドクターが、タイムスリップをするという時代劇。「いわゆる医療ドラマの枠を超え、幕末へタイムスリップした医師を中心に、人間愛や家族愛を絡めた壮大な物語です」(静岡、64歳男性)。いまのコロナ禍に絡め、「現代と過去を行き来しながら過去の病を治療する、そんなことができたら今のこのコロナもいとも簡単に根治できるのでは」(京都、57歳女性)という意見もあった。
そして3位は、「私、失敗しないので」が決めゼリフの「ドクターX~外科医・大門未知子~」。滋賀の女性(31)は自身の境遇を大門に重ねる。「実社会ではあり得ないながらも、私の理想を大門が貫いています。上司にひたすら頭を下げる日々ですが、会社で言いたいことを言えたらどれだけ気持ちがいいか。私のできないことをしてくれて、人間関係の現実味も持ち合わせているので、何回みても楽しい」
トップ10には、アメリカのドラマが二つ入った。4位の「ベン・ケーシー」と6位の「ER緊急救命室」である。
60年代初めに放送されたベン・ケーシーには60~70代の方々から、多くのコメントが寄せられた。「ドラマの最初に、男、女、誕生、死亡、無限と記号を黒板に書いた後で病院のドアが開き、ストレッチャーに乗った患者が現れてエレベーターに乗り、連れて行かれた部屋でベン・ケーシー医師が登場するという場面が大好きで毎回見ていました」(東京、64歳女性)
鹿児島の男性(43)は「群を抜くリアリティーで『ER』です! 特にシリーズ初期、医療に映し出される社会問題を、圧倒的な作り込みとスピード感で描いています。繰り返し見返しました」。その影響か、いちどはあきらめた医療の道に進み、いまは看護師10年目となったという。
救急と対照的にへき地医療を取り上げたのが、5位に入った「Dr.コトー診療所」。「豊かな自然を背景に皆それぞれ悩みを抱えながら生きていて、沖縄らしさも満載で、ある意味今より良き時代だったなあとつくづく思います。吉岡秀隆さんや柴咲コウさんら、みな自然な演技で、涙したりため息が出たり、とても感情移入して見ていられました」(神奈川、75歳女性)
■社会システムえぐる
メディア文化評論家で、多くのドラマ評論を手がける碓井広義さん(66)に、今回のランキングや医療ドラマ人気の秘密などについて聞いた。
まず、ランキング1位の「白い巨塔」から。「何と言っても、山崎豊子さんの原作のすばらしさでしょう。財前五郎の魅力、奥深さだけでなく、それまで内部をうかがい知れなかった医学界や大学病院の内側、そこにうごめく人間模様を、見事にえぐり出していた」と評価する。
2位の「JIN―仁―」は、「異色ぶりが魅力」と評する。現代のドクターが、タイムスリップをするという面白さだけではないという。「坂本龍馬や勝海舟らも登場する、日本人が大好きな幕末歴史ドラマ、そして恋愛ドラマの要素もある、三位一体のぜいたくなドラマになっています」と分析する。
そして3位の「ドクターX~外科医・大門未知子~」。「来たか、という感じ(笑)。大学病院の権威などと闘う一匹狼(おおかみ)の女性医師の爽快感。医療ドラマにおける水戸黄門といえますね」
「ベン・ケーシー」の4位は、「ちょっとびっくりだった」というが、「日本人が初めて出会った医療ドラマでしたから、とても鮮烈で、思い出深いのではないでしょうか。脳神経外科医として成長し、次々と患者を救っていく姿はかっこよかった」。
同じアメリカのドラマでいうと、90年代から放映された「ER緊急救命室」も、日本人が初めて見る「救命モノ」だったという。原作は「ジュラシック・パーク」を書いたマイケル・クライトン。「彼は小説家で医学博士だったので、原作がリアルだった」
日本のドラマに戻ろう。5位に入った「Dr.コトー診療所」。「物語の舞台が島で、緊密な人間関係のなか、島の人とつながる医師を、主役の吉岡秀隆さんがナイーブに演じた。とても新鮮な印象を受けた」
7位の「コード・ブルー―ドクターヘリ緊急救命―」。「2008年から放映され、これからドクターヘリを全国配備していくぞ、というときで、ドラマが先取りして、その存在を知らしめた役割も大きかった」
医療ドラマは、なぜこうも人気があるのか?
「まず、医療ドラマは、同時に社会派ドラマであるということ。医療システムイコール社会システム、でもあるんですね。さらに医療って、経済と同じように関心があるけど、なかなか実態が見えづらい。そこを見たいというのもあるのでしょう」
さらに碓井さんは続ける。「医療ドラマの主人公は、医師。病気を抑え、患者を助ける。強きをくじき、弱きを助ける存在。ヒーロー。生と死という究極のテーマを扱うヒーロードラマなんです。典型は『ドクターX』です」という。
ところがここ数年、この「ヒーロー路線」が若干変わってきているという。「ヒーローが1人ではない、また主人公自身も悩み、迷いながら生きていくパターンが出てきたんです」。
2015年に第1期放映の「コウノドリ」は、医療スタッフ全員で考え悩む「チーム医療」がテーマになり、放射線技師や薬剤師が主役になるドラマも登場してきた。
「コロナ禍で物事を単純に割り切れない時代、世の中にグレーな部分が増えてくると思います。人間的な葛藤を描いた医療ドラマは、今後も様々な形で出てくるのではないでしょうか」
<調査の方法> 3月中下旬、1498人が回答。11位以下は(11)監察医 朝顔(12)コウノドリ(13)宮廷女官チャングムの誓い(14)ナースのお仕事(15)透明なゆりかご(16)アンナチュラル(17)法医学教室の事件ファイル、などと続く。
【佐藤陽】
朝日新聞「be」2021.04.17