<碓井広義の放送時評>
没後40年の向田邦子
継承されるテーマ「家族」
3月まで放送されていた連続ドラマには、強い印象を残す「ホームドラマ」があった。その一つが、宮藤官九郎脚本「俺の家の話」(TBS-HBC)だ。
観山寿三郎(西田敏行)は、能楽の二十七世観山流宗家で人間国宝。脳梗塞で倒れて車いす生活となり、認知症も抱えてしまう。長男の寿一(長瀬智也)はプロレスラーだったが、父の介護をするために実家に戻ってきた。だが、介護する側も、される側も初めての体験だ。家族とはいえ戸惑いや遠慮もある。介護ヘルパー(戸田恵梨香)など他人との関係も難しい。
このドラマは、介護を日常的な「当たり前のこと」としてストーリーに取り込んでいた。しかも全編に笑いがあふれている。型破りなホームドラマであると同時に、秀逸な「介護ドラマ」でもあったのだ。
もう一つが、北川悦吏子脚本「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」(日本テレビ-STV)。「恋愛小説の女王」である作家、水無瀬碧(菅野美穂)と娘の空(浜辺美波)の物語だ。
かなり浮世離れした母と漫画オタクの娘は大の仲良しだが、やがて「実の父親」をめぐって騒動が起きる。血のつながりだけでは測れない家族の絆。コメディータッチでありながら、「そもそも家族って何だろう」と考えさせてくれる、異色のホームドラマだった。
家族の人間模様を描くドラマで思い浮かぶのが、「寺内貫太郎一家」(1974年)や「あ・うん」(80年)などで知られる脚本家、向田邦子だ。81年に取材旅行中の航空機事故で亡くなったが、今年は没後40年に当たる。
向田が書いたセリフには、家族についての深い洞察がちりばめられていた。たとえば「寺内貫太郎一家」では、父への不満をぶつける息子(西城秀樹)を母親(加藤治子)がたしなめる。「一軒のうちの中にはね、口に出していいことと、悪いことがあるの」と。また、息子(竹脇無我)と二人暮らしの父親(森繁久弥)が、元部下に向かって「男は長生きすると子不孝だぞ、覚えとけよ」と言っていたのは「だいこんの花」(70年)だ。
家族は期間限定。父、母、子として過ごすことで互いを熟知していたはずなのに、ふと相手の中に自分が知らない「他者」を感じて驚いたりする。向田はそんな瞬間を見逃さなかった。
昨年来のコロナ禍の中で、あらためて家族の存在に目を向けたと言う人も多い。向田邦子が精魂傾けた「家族」というテーマは、さまざまに形を変えながら現在も新しい。
(北海道新聞 2021.04.03)