goo blog サービス終了のお知らせ 

碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

田中邦衛さんが 『北の国から』に遺した、 忘れられない「名ゼリフ」たち

2021年04月04日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

田中邦衛さんが

『北の国から』に遺した、

忘れられない「名ゼリフ」たち

 

俳優・田中邦衛さんの訃報が伝えられました。

田中さんと聞いて、多くの人が思い浮かべたのは、ドラマ『北の国から』(フジテレビ系)の主人公、黒板五郎ではないでしょうか。

奇しくも今年は、『北の国から』の放送開始から、ちょうど40年に当たります。

『北の国から』は1981年に始まり、2002年まで約20年にわたって放送されました。

田中邦衛の黒板五郎か、黒板五郎の田中邦衛か。それくらい両者は一体化していました。

田中さんが亡くなったのは事実だとしても、今も五郎さんとして、富良野のどこかを歩いているような気がします。

『北の国から』全作品から選んだ、田中邦衛さんの「名ゼリフ」

脚本家・倉本聰さんが書き続けた『北の国から』。

田中さんは、セリフに命を吹き込み、黒板五郎をまるで実在の人物のように演じ切ってくれたのです。

追悼の意味で、『北の国から』全作品の中から選んだ、田中邦衛さんが遺した忘れられない「名ゼリフ」を、振り返ってみます。

あの佇まいと笑顔、そしてあの声と口調を思い出しながら・・・。

<生きること>

「夜になったら眠るンです」(『北の国から』)

「人が信じようと信じまいと君が見たものは信じればいい」(同)

「体に関しては、義理なンか忘れろ」(同)

「もしもどうしても欲しいもンがあったら――自分で工夫してつくっていくンです。つくるのがどうしても面倒くさかったら、それはたいして欲しくないってことです」(同)

<親と子>

「(ギラリと見る)子どもがまだ食ってる途中でしょうが!!」(『北の国から‘84夏』)

「疲れたらいつでも帰ってこい。息がつまったらいつでも帰ってこい。くにへ帰ることは恥ずかしいことじゃない。お前が帰る部屋はずっとあけとく。布団もいつも使えるようにしとく」(『北の国から‘87初恋』)

「つまり――世間的にはよくないかもしれんが少なくともオレには――父さんに対しては――申し訳ないなンて思うことないから。何をしようとおれは味方だから」(『北の国から‘95秘密』)

<仕事とは>

「(ほがらかに)お金があったら苦労しませんよ。お金を使わずに何とかしてはじめて、男の仕事っていえるンじゃないですか」(『北の国から』)

「人にはそれぞれいろんな生き方がある。それぞれがそれぞれ一生けん命、生きるために必死に仕事をしている。人には上下の格なンてない。職業にも格なンてない。そういう考えは父さん許さん」(同)

「(明るく)人に喜んでもらえるってことは純、金じゃ買えない。うン。金じゃ買えない」(『北の国から‘98時代』)

<社会とは>

「じゅうぶん使えるのに新しいものが出ると――、流行におくれると捨ててしまうから」(『北の国から』)

「暖房やクーラーをがんがんつけた部屋でエネルギー問題偉い人論じてる。ククッ。あれ変だよね。そう思いません? ククッ。ナアンチャッテ」(『北の国から‘89帰郷』)

「おかしいっていやお前、まだ食えるもンを捨てるほうがよっぽどおかしいと――思いません?」(『北の国から‘95秘密』)

<再び、生きること>

「金があったら金で解決する。金がなかったら――智恵だけが頼りだ。智恵と――、自分の――、出せるパワーと」(『北の国から‘92旅立ち』)

「お前の汚れは石鹸で落ちる。けど石鹸で落ちない汚れってもンもある。人間少し長くやってりゃ、そういう汚れはどうしたってついてくる」(「北の国から‘95秘密」)

「悪口ってやつはな、いわれているほうがずっと楽なもンだ。いってる人間のほうが傷つく。被害者と加害者と比較したらな、被害者でいるほうがずっと気楽だ。加害者になったらしんどいもンだ。だから悪口はいわンほうがいい」(『北の国から‘98時代』)

「金なんか望むな。倖せだけを見ろ。ここには何もないが自然だけはある。自然はお前らを死なない程度に充分毎年喰わしてくれる。自然から頂戴しろ。そして謙虚に、つつましく生きろ。それが父さんの、お前らへの遺言だ」(『北の国から2002遺言』)

 

――俳優・田中邦衛さん、2021年3月24日没。享年88。

合掌。


【書評した本】 春日太一『大河ドラマの黄金時代』

2021年04月03日 | 書評した本たち

 

 

作り手たちが証言する、

大河が「作品」だった頃

 

春日太一『大河ドラマの黄金時代』

NHK出版新書 1110円

 

春日太一『大河ドラマの黄金時代』は、過去の作品が「どのように作られたか」を検証した一冊だ。対象は1963年の第1作「花の生涯」から91年の「太平記」まで。当時のプロデューサーとディレクターの「証言」だけで構成されているのが最大の特色だ。

最初のプロデューサー・合川明は、芸能局長から「スターを連れてこい!」と厳命を受ける。しかし映画俳優は会社との専属契約に縛られ、テレビ自体が格下と見られた時代だ。合川も松竹のスター・佐田啓二を担ぎ出すのに苦労する。

その後、長谷川一夫主演の「赤穂浪士」、新人だった緒形拳を起用した「太閤記」とヒットが続き、第7作の「天と地と」では演出家3人の分担制が導入された。その一人、清水満は「紙芝居的な面白さを狙おう」としたことを明かす。

また前代未聞の事態となったのが74年の「勝海舟」である。主演の渡哲也が病気で交代し、脚本の倉本聰が途中降板したのだ。本書ではディレクターの伊豫田静弘が、無理なスタッフ編成など核心部分を率直に語っていて驚かされる。

読後、印象に残るのは作り手たち個人の熱い思いであり、真っ直ぐな創作欲だ。そこには「マーケティング」など存在しない。変ってくるのは、大河ドラマが「作品」から「商品」へと移行する90年代だ。著者が執筆範囲を「黄金時代」と呼ぶ理由もそこにある。

(週刊新潮 2021.04.01号)


言葉の備忘録223 ただ・・・

2021年04月02日 | 言葉の備忘録

 

 

 

ただいのちであることの

そのありがたさに へりくだる

 

 

谷川俊太郎 「ただ生きる」 (詩集『いつかどこかで』)

 

 

 


Eテレ「植物に学ぶ生存戦略」は、テレビならではの知的遊戯

2021年04月01日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

山田孝之のNHK・Eテレが攻める

「植物に学ぶ生存戦略」は知的遊戯



NHK・Eテレには「いつ放送されるか分からないシリーズもの」という不思議な番組が存在する。

この不定期レギュラーにおいて、「香川照之の昆虫すごいぜ!」と並ぶ傑作と呼べるのが「植物に学ぶ生存戦略」だ。俳優の山田孝之が、植物の生態を「擬人化」して語るマニアックな内容は、一度見たら病みつきになる。聞き手は林田理沙アナウンサー。

先週25日、昨年の夏以来となる待望の第5弾が放送された。3つの植物が登場したが、ツバキと西麻布が同じ「生存戦略」だという説明に笑った。キーワードは「一見さんお断り」だ。

ツバキは冬にだけ花を咲かせ、しかも虫ではなく鳥だけに花粉を提供する。それが最寄り駅もなく、客をセレブに限定した西麻布と共通しているというのだ。「(女性の)お持ち帰りはタクシーです」と真顔で話す山田。真面目な顔で聞く林田。微妙な間がおかしい。

さらに西麻布では、客に「特別感」を与えるために、店の扉を暗証番号で開けさせたりする。それは横向きに花を咲かせ、長いクチバシを持つ鳥だけを受け入れるツバキに通じるそうだ。山田が「私は西麻布の王です」と林田を誘う。それを聞き流して、「ありがとうございました」と締めくくる林田がいい。

民放の深夜枠でも真似できない、テレビならではの知的遊戯。“攻めのEテレ”に拍手だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.03.31)