吉本隆明が亡くなって、想定どおり、
あれこれと遺作やら関連本の出版が続きました。
最も秀逸だったのは、吉本の語りによる「フランシス子へ」でありましたね。
ところが先頃、最後の自筆連載物として「開店休業」が出版されてみると、
これも劣らず実に見事なできばえであります。
吉本がインタビューによる語りを主とするようになって、
文筆とは違った「話体」をずいぶん意識していたようですが、
それは、幾分か「生身を出来るだけ出してみる」
ということもあったのではないでしょうか。
でも結局は文筆家のさがからは逃れられません。
うまくいっていたのかどうか。
「開店休業」は吉本の食べ物エッセイの一篇一篇に
その長女がほぼ同じ分量の追想文を付け加えたものになっています。
これがなかなかの圧巻でありまして、吉本自身が、
語りつつ書きつつ、自身の生身を出そうとしていた、そのことを
介護し食事の面倒を見る娘さんが、いともあっさり成し遂げてしまっているのです。
「『食』を巡る物語はそのまま『家族』の物語だ。」と言う長女ハルノ宵子、見事であります。
吉本晩年の、家族の中での姿が、何だか小津の映画の場面々々を見るような気も致しました。
愛おしいですね。娘の最後の文「氷の入った水」は特に秀逸ね。
本の半分ほど続けて読み、残りを時に任せてだらだら読んでいると、
ふと娘の文章を父親の文章のように読んでいたりするのに気がつきます。
時々、渾然一体となるのでありますね。
吉本が一人ではついに達成できなかった本のある姿が
ここでは娘さんとの二人の力で間違いなく達成できているのでありました。
(たまには本の話題もね。鳥ばっかりじゃないから。)