演奏にもよるが、全曲で2時間半ほどかかるバレエ音楽。舞台を観たことがあるのは、今を遡ること四半世紀以上前、上野の東京文化会館でのレニングラード・バレエ団の公演一度だけ。後はもっぱらCDで聴くばかりだが、全曲にわたって鏤められた多彩な美しいメロディーは、時に溜息をつきたくなるほど。抜粋や組曲では何種類かの演奏を聴いたことがあるが、全曲盤というと、ロリン・マゼール指揮・クリーヴランド管弦楽団の1973年の録音とワレリー・ゲルギエフ指揮・マリインスキー劇場管弦楽団の1990年の録音だけ。この後者は、数年前に数回聴いただけで今ではお蔵入り。前者は私の長年の愛聴盤。これはもうバレエのための伴奏音楽などではなく、華麗な絵巻物のように繰り広げられる絶美の音の世界。マゼールは、ジョージ・セルに鍛え上げられたクリーヴランド管弦楽団の性能を最高度に引き出し、とことん磨き上げられた音作りに見事に成功している。マゼールのクリーヴランド時代を代表する名演。今この記事を書いている間も同盤番を聴いている。演奏時間は合計で2時間20分を超えるが、冒頭の前奏曲から最後のエピローグ「ジュリエットの葬儀-ジュリエットの死」まで通して聴いても飽きるということがない。特にクリスマスが近づいてくるとなぜか聴きたくなる。