【小泉悠×高橋杉雄】「思春期をグチャグチャにされた」? “架空戦記”作家・佐藤大輔の真価を語る 〈アニメの戦争と兵器〉番外編
●はい、思春期をグチャグチャにされた国語屋稼業でございます。
●佐藤大輔氏を私は3回ほど見たことがありまして。
●一度目はゲームのコンベンションで。
SSシリーズの『ベトナム戦争』をデザインされたころか。
まさにお見かけしただけであった。
そういえば、もう、手元にはないですが、『ベトナム戦争』とツクダの『うる星やつら』のゲーム、似ていた記憶がある。
ゲリラ戦だからありえるかと。
けど、シミュレーションゲームをしていたのは、今は昔のこと。
今は売ったり、廃棄したり。
RSBCも売ってしまったし。
閑話休題。
●二度目は水道橋だか、お茶の水の交差点ですれ違った。
翔企画にゲームの企画を持って撃沈した帰りであった。
佐藤大輔氏は翔企画の方へ歩いていらっしゃっていた。
ひょっとしたらタバコ代をせびりに=原稿仕事をもらいに行った直前だったのかもしれない。手ぶらの記憶がかすかにある。
この時はお辞儀をした。
彼は少し驚いたような顔をした。
そりゃそうだ。見知らぬオタクからお辞儀されたのだから。
私としては、いわゆる小隊レベルの奇襲に成功した大隊長の気分といったところだったか。
●三度目は新宿の中華料理屋さんで。以前に書いたかもしれん。
真後ろの席に座られていた。
当時、友人がスロット(パチンコ?)の『花の慶次』にはまっていて、マンガから、小説『一夢庵風流記』まで読んでいたので、『信長記』を勧めていたのである。
「慶次郎が部隊を率いてな、命令するんだよ、鉄砲隊に。普通ならさ、打てぇとか、てぇーっ!とかになるじゃない? そこをな、”かぶけぇ!”って言うんだよ、な、かっこいいだろ」
とか言って友人を口説いていたような気がする。
すると、後ろの席の気配が変わったのである。
ざわっというか、笑いというか。
そこで後ろの席の会話を申し訳ないが聞き耳を立ててみると、「仮に合州国がないとしてだ」「合州国がなければ世界史は説明できませんよ」「『信長征海伝』の作者がなにをおっしゃるやら」とかいう会話がなされていたのである。
つ、ま、り、だ。
『信長征海伝』の作者=佐藤大輔氏がいるということではないか。
お店の会計を済ませるために友人らは立ち、20歳ころのオタク期のようにわたしは挙動不審になっており、友人らは異変に気付いた私を置いて外に出た。
私はというと勇気をもって後ろを振り向いた。
最初に思ったのは「あ。高梨教授がいらっしゃる」だった。不思議なことだ。
次に第一次世界大戦の元首Tシャツを着ている人物がいることに気づき、その上を見ると、彼だった。佐藤大輔氏だった。
佐藤大輔氏は熱く語るファンが目の前にいるのが恥ずかしいのか、背広を着たオタクを見て面白がっているのか、微笑されていた。
私は声が上ずりながらも「あなたのファンです。続巻期待しています」と言ってしまった。一瞬、困ったなという顔をされていた。小隊レベルの奇襲攻撃をまたしてもしてしまったか。
その後に余計な一言を付け加えながら。
「僕も小説を書きます」と。
いまだに書いていない。
●いつまでだろう、彼に「グチャグチャ」にされたのは。
今もかもしれない。