第一編総論
第一章
序説
第一節 文 作文の必要
文は心の表現なり。心無ければ文なし。卓越せる心の筆端にあわせるもの、推敲し、洗練せられて千古の名文となる。
文は人類の総ての記録なり。この記録あって始めて既往を知り将来を知る。世の文明は、この記録によって既知より未知に進んで築かるるなり、この記録によって世界隈なく宣伝せなるるなり。文の人生に関するや大いなり。宜なるかな古人文を以て経国の大業不朽の盛事と言えること。
軍人には特に文の必要を見る。時の平戦を論ぜず、地位の高下を問わず、軍人に文章力を要すること、既に諸先輩の明言するところあり。而してその行文は、簡明なざるべからず、苦思せず、渋滞せず、千言立ちどころに成る底の怪腕なかるべからず。これ一に自家の素養に待つ。誰か軍人に作文の練習の必要なしと謂わんや。
その文を作るには法無し。而して有り。言わんと欲する所を言い書かんと欲する所を書くのみ、何ぞ法の拘泥すべきあらんや。然れども、言わんと欲して言い得ず、書かんと欲して書き得ず、あるいは自ら言い得たり書き得たりとするも人の読んで我が意を解せざるあり、はたまた誤解するあり、畢竟その目的を達せずしておわる。これ法の無かるべからざる所以にして、学んで習わざるべから所以なり。作文の必要ここに在り。
第一章
序説
第一節 文 作文の必要
文は心の表現なり。心無ければ文なし。卓越せる心の筆端にあわせるもの、推敲し、洗練せられて千古の名文となる。
文は人類の総ての記録なり。この記録あって始めて既往を知り将来を知る。世の文明は、この記録によって既知より未知に進んで築かるるなり、この記録によって世界隈なく宣伝せなるるなり。文の人生に関するや大いなり。宜なるかな古人文を以て経国の大業不朽の盛事と言えること。
軍人には特に文の必要を見る。時の平戦を論ぜず、地位の高下を問わず、軍人に文章力を要すること、既に諸先輩の明言するところあり。而してその行文は、簡明なざるべからず、苦思せず、渋滞せず、千言立ちどころに成る底の怪腕なかるべからず。これ一に自家の素養に待つ。誰か軍人に作文の練習の必要なしと謂わんや。
その文を作るには法無し。而して有り。言わんと欲する所を言い書かんと欲する所を書くのみ、何ぞ法の拘泥すべきあらんや。然れども、言わんと欲して言い得ず、書かんと欲して書き得ず、あるいは自ら言い得たり書き得たりとするも人の読んで我が意を解せざるあり、はたまた誤解するあり、畢竟その目的を達せずしておわる。これ法の無かるべからざる所以にして、学んで習わざるべから所以なり。作文の必要ここに在り。
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