国語屋稼業の戯言

国語の記事、多数あり。国語屋を営むこと三〇余年。趣味記事(手品)多し。

作文参考書 陸軍予科士官学校  その2

2018-08-17 08:37:30 | 作文参考書 陸軍予科士官学校



第一章
第三節  文の作るときの手順
文を作るには、およそ左(以下)の手順によりて工夫し筆を下すべし。
第一、 思想を緻密に整え、書くべき材料を集むること
 思想綿密ならざれば、あるいは疎漏に陥り、あるいは道理に背馳せん。材料集まらざるに文を作らんとするは、なお木石を持たずして家を建てんとするがごとし。思想綿密にし、材料を集めんには、およそ左(下記)の諸項に注意するを可とする。
一、 この文を書く趣意は如何と考うべし。
二、 この文は何を主眼とすべきかと考うべし。
三、 主眼に付属して言うべき事項は何々なるかと考うべし。
四、 書くべき事実は正確に取り調ぶべし。
五、 余力あらば予め所題に関係ある諸大家の意見(著書・演説・文章などによって)を調べて参考に資すべく、これに関する説明文・格言・俚諺等もあさり見るべし。

第二、 既に得たる思想材料は、これを選択取捨すること。
第一のごとくして得たる思想材料は、固より豊富なるを良しとすれども、そを悉く書き連ねんことは、時間の許さざることもあるべく、読者を倦ましむることともあるべく、あるいは繁細に過ぎて却って不得要領に終わることともなるべし。故に、その豊富なる思想材料中につき、軽重大小の如何を考察して適当に選択取捨を行うべし。
猶おこれに一の付言すべきことあり。他人の思想材料をそのまま盗むべからざることなり。こは剽窃とて、糟糠をなむること一般、陋の甚だしきものなり。

第三、 既に選択して得たり思想材料は、これを順序良く配列して、文の結構を定むること。
この工夫なき文章は、たとい言辞に人を驚かすそこの光彩は有りとも、首尾を貫いてその要を捕へんとすれば多くは支離滅裂を免れず。
配列結構の工夫はおよそ左(下記)の諸項による。
一、 起首は如何にすべきかと考ふべし。
二、 中要は如何に横説縦説すべきかと考うべし。
三、 結尾は如何にせば力あると考うべし。
あるいは、この文は普段幾節に分かち、その各段節に如何なることを述ぶべきかと考うべし。

第四、 結構既に成らば、始めて筆を執って一気呵成に書き流すべし。
この際、苦思渋滞せば、筆端窘蹙して暢びざるに至らん。

第五、 既に書き流したる第一草稿は、時と労の許す限り幾度も読み返して、自ら改竄し、推敲洗練すべし。
もしこの工夫を欠くときは文疵百出ほとんど卒読に堪えざるものとなるべし。この工夫によって洗練せられたるものは、始めて清書して遺憾なかるべきものなり。しかりしかれども、学校課程の作文のごとき、時間の制限厳なる場合にありては、この工夫行われ難きこと少なからず。さるときは筆を下すの際子細の注意を一字一句にもはらう習慣を作るべく、後に至りて妄りに塗抹するがごとき、悪癖を生ぜぬようにと心がくべし。


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