(以下、中高生に向かって語っていますが、一般の方、マジシャンの方にも関心を持ってもらえる本かと)
●盲学校、視覚障害者施設でマジック、手品を見せるということを想像してほしい。
沈思黙考。
●どうであろうか、想像できただろうか。私には想像できなかった。
視覚を使用しないマジックが想像できなかったのである。
●そのようなことに挑戦し、継続されている方、万博さまが書かれた本が『盲学校でマジックショーを!』(Amazonへリンク)なのである。
●先に書いておこう。
この本ほど「他者」を考えさせる本は珍しい。
視覚障害者、視覚障害者の前でマジックをしている筆者、マジシャンなど、「自分と違う存在=他者」を意識しやすい本は少ない。
「みなさま、こんにちは!盲学校や視覚障害者福祉施設などで手品を演じる活動をしています、マジシャン万博と申します。私は今、襟付きの白いシャツの上に、黒いジャケットを羽織り、黒いズボンを履いて、黒い帽子をかぶり、そして金色の蝶ネクタイをしています。少し失礼して、一度マイクを外して声を出させて頂きます。みなさま!私はここで喋っています!失礼しました。今は壇上でマイクを手に持って喋っています」(まえがきより)
傍線部(国語屋稼業が勝手にひいた)の意味はわかるだろうか、視覚障害者、この言葉を言うマジシャンという「他者」を知るきっかけとして良いシーンであろう。
このように冒頭部分で視覚障害者の前で演じるマジシャン像を叩き込んでくるあたり、万博さまはさすが。
]●また、人間のキャリア形成についても、考えさせてくれる。盲学校の教員になった理由(5ページ)が非常にユニークだと思う。キャリア形成中の中高生には、こういう理由で教員になることもあるのかということを知るのは今後生きていくうえで中高生には重要だと思う。
●18ページ。プロマジシャンの言葉に「なぜそんなことをするのか。それは目の見えない人に対して失礼ではないか」という発言がある。
このあたり「バリアフリー」という言葉を理解する契機。バリアフリーというのは、「他者」理解なしにできることはない。今では既製品でバリアフリーという言葉を冠しているものは多いが、バリアフリーというものの根源は考える、想像する契機が大切なのである。
プロマジシャンの言葉、筆者の判断、どちらも重要な視点を含んでいる。このあたり、表現・構成を変えて小論文的に書きなおすと、手持ちの武器が増えること間違いなし。
というか、この部分を使うと小論文問題作れるわ。
●他者理解には「意外」というのが重要である。相手が自分と同じだと考えてどこに「他」者がいるというのか。他者というのは意「外」なのである。
「もちろん、私も最初はこんなことは知りませんでした」(24ページ)
この言葉、重いなあと思える読者であってほしい。
なお、視覚障害者の方の触覚や聴覚について述べられている箇所も探し出し、読んでおこう。
●「第三章 失敗談」。失敗から学ぶというのはこういうことだと理解するのも大切だけど、「失敗の語り方」を覚えるのに格好の教材となっている。
たまに生徒に模擬面接していると失敗談の内容がひどすぎて面接官として、こいつだけはいらんわぁと思ってしまうことがあるのだが、ここで語られる失敗談は、理解しやすく、共感が持てる。
そう「共感」できる失敗の語り方は重要なのである。
●「第四章 ウケた話」。むろん、一般的にウケるマジックと視覚障害者との関係を読み取るのは必要だが、ここでは特に「学校でのマジック」についても考えてほしい。たとえば、「メッセージのついたマジック」とは何かを想像してほしい。その実践と答えがこの本にはある。学校という教育現場について考えるのに格好の部分である。
逆に言えば教育現場にいる「他者」について考える好機。「先生」という立場を理解してみよう。
●「第五章 これからのこと」。「他者」に向かって、未来を語るということは存外、難しいことである。
その際、今まで継続していたことから、語っている本書は有効。
たまに、いるのだ、未来と今が断絶している生徒さんが。「他者」である面接官はシラケる、あるいは、呆れてしまう。未来を語るってこういうことかということなのかとこの本で実感してもらえれば、これ、幸い。
●エッセイ集としても面白く、筆者=万博さまの賢さが伝わってくる文章である。
非常に読みやすい。
●100ページ前後の本で読みやすい本なので「最近、読んだ本は?」とか、「好きな本は?」対策に向いている。この本を読んでいる大学の教員は少ない(はず)し、語れる内容は上記の通り。小論文で引用やら、「『盲学校でマジックショーを!」という本によると」などと具体例に使うのにも持ってこい。
●中高生がこの本を読まないのは非常に惜しい。もったいない。
読むべし。
●追伸
マジックも三つ載っていますよ。視覚障害者向きのマジックを体験できるようになっていますよ。
当然、視覚障害者でなくても楽しめる。視覚障害者という「他者」と共有して楽しめるものってレアじゃないかな。
●追伸No2
なんて賢い文章なんだろうと感じられた人は素晴らしい。よく見抜けましたである。ちなみに当たり前の話ではある。だって、筆者は賢いんだもん。
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