●古文の本を収集して見て思ったのは芸だなあと思える本に出会えたときは嬉しい。
●こういう切り口があったのかという感動である。
●駿台文庫さんの『古文読解教則本』もそれにあたる。
「用例の中にまだ学習していない助動詞が入ってしまっている。」
「あとで学習する助詞・助動詞が含まれない例文ができるようにした。」
●名人芸である。そのため「る・らる」から始まるのが通例の文法が「まほし・たし・ばや・なむ」と言った願望、希望系で始まっている。大英断である。
●私にはできない。さすが長年の間、駿台のバイブル的存在(ですよね)だけあっただけはある。
●ただ、私が気になったのは「あふむいとあはれなり。人の言うことをまねぶらむよ」の「らむ」が東京大学受験生一万人が「伝聞の助動詞」としてできなかったらしいというエピソードが載っていることである。
この「らむ」を伝聞で訳す語ほとんどの例文は枕草子の「あふむいとあはれなり。人の言うことをまねぶらむよ」くらいである。写真のように何冊かの本を見たのだが(実際はそれ以上みている!)、「らむ」について思い切って「現在推量」の意味しか載せていないものもある。これも英断である。その他の用法は「む」に準じているとでも教えておけばよいのである。
●私は東大受験生一万人ができなかったことを知る必要があるのかを疑問に持ったのである。トップレベル受験生一万人が知らないことを教えるのは効率が悪くないかということなのである。
●実際、ざっとだが、本当にざっとだが、写真の本の多くは「伝聞・婉曲」という表記であった。このあたり、一番わかりやすい説明は、小西甚一氏のご著書『古文の読解』で「こんな(あふむの例文のこと)『らむ』はたいてい「ようだ」と訳しておけば当たらずといえども遠からずだと思われる」と書いてくださっていることだった。つまり、「婉曲(のような)」から派生した「不確かな断定」として訳すことを提案してくださっているのだ。「む」の婉曲用法は基本知識なので、「らむ」にも「婉曲」用法はある。それの応用を提案されていると私は解釈した。
●なお、「あはれ」には現代語の「哀れ」という意味は少なく、「しみじみとした趣がある」「かわいい」「もの悲しい」となる。ここでは小動物「あふむ=おうむ=鸚鵡(オウム)」に向かっての「あはれ」なので「かわいい」が適当だろう。
「おうむはとてもかわいい。人が言うことを真似ているようだよ」というあたりが直訳として妥当なところか。文脈によっては意訳で「そうだ(伝聞)」で訳しても良いかも。
●『古文読解教則本』は後半になればなるほど、難易度が高くなるのだが(教則本とはそういうものだ)、非常にわかりにくい部分がでてくる。「く語法」はわざわざ学ぶほどのことはなく、「いはく」が「いうことは・いうには」と訳せるだけで良いと思うのだが浅学ゆえの感想であろうか。
●恩師である土屋博映師は名著『古文公式222』において余白を活かして他の文法事項などを入れていくという方式を取っていらっしゃる。こちらの方が現実的であろう。
私なら『古文公式222』の版型を大きくして練習問題をいれるのだが、そういう本はいかがだろうか。
どなたか出せばよいのに。
●あー、土屋博映師と連絡を取りたい。早く本を書かねば。書かねば。
書けば、送付したいという大義名分で送るのに。
●とは、思うものの、伝聞の「らむ」を(大学受験レベルの範囲で)調べてまとめるだけでこれだけの時間(今日の午前中)を食うのだから、ぞっとする。
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