さまざまな組織や細胞になる能力を持つ「万能細胞」を新たな手法で作ることに、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターのチームがマウスを使って成功し、1月30日付の英科学誌ネイチャーに発表した。
体細胞を弱い酸性の溶液に入れることで刺激を与えて作る世界初の手法。
「刺激惹起性多能性獲得」の英語の頭文字からSTAP(スタップ)細胞と命名した。
同様の能力を持つ人工多能性幹細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)とは異なる簡単な作製法で、移植の際の安全性も高いとみられる。
人の細胞で作れれば再生医療への応用が期待される。
弱酸性溶液で外部から刺激を与えるだけで、細胞が受精卵のような状態に巻き戻される「初期化」現象が起き、多様な細胞に変化する能力を得た。
初期化は、iPS細胞のように細胞核に手を加えない限り動物では起きないとされ、生命科学の通説を覆す成果だ。
センターの小保方研究ユニットリーダーを中心とするチームは、生後1週間のマウスのリンパ球を弱酸性溶液に約30分間入れた後に培養。
2~7日目で7~9%が、多様な細胞に変わる能力を持つ細胞の塊になった。
これがSTAP細胞で、刺激によるストレスで細胞が死にそうな状態になってできたとみている。
皮膚や肺、心筋などの細胞からも作製できた。
STAP細胞を培養したりマウスに移植したりすると神経や筋肉、腸管上皮などの細胞に変化。
iPS、ES細胞にはない、胎盤になる能力もあった。
STAP細胞から変化した細胞を全身に持つマウスも生み出した。
遺伝子を導入し作製に数週間かかるiPS細胞より短期間で作れ、iPS細胞で懸念される体内でのがん化の可能性も低いという。
米ハーバード大との共同研究。
女性研究者の活躍が難しいとされる日本にあって、異例の若さで、研究室を仕切る小保方さんは、祖母からもらったかっぽう着に必ず袖を通して毎日、実験に取り組んでいる。
小保方さんは「体内での臓器や組織の再生、細胞へのストレスが原因になるがんの抑制など新たな医療や細胞操作技術の開発につながるかもしれない」と話す。
iPS細胞は皮膚などの体細胞に遺伝子を導入して作製、ES細胞は受精卵を壊して作成するため、倫理的な問題があるとの声もある。
メカニズムの全容はまだ分かっておらず、今後の課題だ。世界中で研究競争が行われている。
国は、STAP細胞に関する支援を急がなければいけない。