地方での医師確保のために設けられた大学医学部の「地域枠制度」が十分に機能を発揮していないことが11月28日、厚生労働省などの調査で分かった。
大学側は、へき地医療を志す若者を確保する難しさを訴えるが、地域にとって医師の存在は、まさに命綱で確実な確保策が求められる。
有識者は「学生の立場に立っておらず全面的な見直しが必要だ」と指摘した。
「経験を積み、総合的に診療できる医師が求められるが、やっぱり、へき地は敬遠されているのか」。
福島県内で高齢化率が最も高く、豪雪地帯としても知られる金山町にある国民健康保険診療所の押部所長は寂しそうにつぶやいた。
人手も設備も恵まれているとはいえない。
1人で診察に当たることも多く、午後はお年寄りらの往診に追われる。
「まず、患者に緊急性があるのか判断することが大事だ」と押部所長。
町職員も「町にとって押部所長はなくてはならない存在だ」と語る。
北海道内の過疎地域にある病院の関係者も、医師確保には苦闘しているとした上で「現場では1人の医師でも貴重な戦力。
これほど欠員が出ていたことは驚きだが、国や大学は本来の目的を再確認した上で、制度をしっかり運用してほしい」と述べた。
充足率が半分程度だった東北大は、入学後に地域枠を希望する学生を募る「手挙げ方式・事後型」を採用する。
希望を募るのは3年生からで、奨学金を貸与する宮城県の担当者は「2年かけて医学を学び、判断してもらいたい。 大学と協議して制度を決めた」。
枠が埋らなかった現状に「周知を図っているが、なかなか難しい」とこぼした。
地域枠と、勤務地の制限がない「一般枠」を分けて選抜する「別枠方式」を採用する長崎大でも2018年度は充足率が落ち込んだ。
長崎県の担当者は「例年おおむね定員を満たしていたが、これほど少ないのは特異なケース」とする。
センター試験の得点が8割に満たない場合は原則不合格とするとの規定に阻まれた受験生もいたようで、担当者は「学力がなければ、本人が苦労する。
途中で医師になることを諦めれば、全てが無駄になってしまう」と本年度の結果に理解を示した。
共同通信が事前に実施したアンケートでは、東北大は地域枠が埋まらなかった分を一般枠に振り分けたとした上で「(振り分けが)地元の医療体制に影響が出る可能性を感じていなかった」と回答。
他の大学からも「欠員を補充することは全体的な医師不足や偏在解消に少なからずつながる」(独協医科大)との意見が寄せられた。
欠員状況が明らかになった11月28日の厚労省の有識者会議。
「大学とは直接やりとりをしていたのか」「どんな選抜方法を取るのか確認するのか」。
委員の追及に、文部科学省の担当者は「フォローアップをちゃんとやっていなかった。 今後は把握する」と釈明に追われた。
「地域枠は学生の立場に立っておらず、埋まらないのは当然」と指摘するのはNPO法人医療ガバナンス研究所の上昌理事長。
「そもそも高校生に30代までの進路を決断させることに無理がある」とした上で、ゼロベースでの見直しを訴えた。