安倍政権は8月29日、北方領土問題の進展を待たずにロシアヘの包括的な経済協力を先行させる方向で調整に入った。
複数の日口関係筋が明らかにした。
両国間の信頼関係を高めた方が領土問題の解決に資すると判断したためで、領土交渉の進展に応じて協力するとした政権の従来方針を事実上転換する。
一部事業は年内にも着手する方向だ。
先行実施するのは、安倍首相が5月にロシア南部ソチでの日口首脳会談で提示した8項目の経済協力案。
首相はロシア極東ウラジオストクで9月2日に予定されるプーチン大統領との会談の際、日本政府を挙げて取り組む考えを伝える見通し。
ロシア側の出方が今後の焦点になる。
経済協力の先行について、日本政府筋は「従来方針で領土交渉が進展しなかった以上、考え方を改める必要がある」と強調した。
日口外交筋によると、両政府は8月29日までに、早期実現が可能な協力案件に関し、意見調整を図った。
7月に当時の世耕官房副長官(現経済産業相)がウリュカエフ経済発展相と官邸で会談した際、開始時期を話し合つたもようだ。
安倍首相は5月にプーチン氏と会談した際に「新たなアプローチ」による領土問題の解決を提案。
包括的経済協力の先行実施は、この新アプローチの中核とみられる。
8項目の対口経済協力案は、極東開発が柱。
日本政府は、立ち遅れた極東地域の振興に強い関心を寄せるプーチン氏の意向を踏まえ、速やかに事業計画を立案し、実行に移す公算が大きい。
このほか石油、天然ガスの生産能力向上への技術支援や、日本の最先端技術を導入した医療センターを早期に建設する案が浮上している。
最近の自民党、旧民主党の政権はロシア側との交渉で、領土問題と経済協力を同時並行で進める戦略で臨んだが、目立った成果を得られなかった。
日本側では「協力を先行しても、ロシアが領土問題で融和姿勢を示す保証はない」との懸念も漏れる。
協力の本格化後、領土交渉でロシアから歩み寄りを引き出せず、政権が苦慮する展開も予想される。
菅官房長官は8月29日の記者会見で、来月の首脳会談では8項目の具体化に向けて協議されるとの見通しを示した。
日本の戦略は間違えていないのだろうか。