社会とのつながりを断ち、存在すら見えなくなってしまいがちな「ひきこもり」。
国の支援が遅れ、長期化や高年齢化か深刻になる中、自治体では住民を巻き込んだ独自の取り組みが始まっている。
「ひきこもりは社会全体の課題」との認識を共有できるかが鍵だ。
人口約6万8千人の総社市に今春、全国でも珍しい「ひきこもり支援センター
・ワンタッチ」が開設された。
市が社会福祉協議会に運営を委託し、専門の支援員が常駐。
これまでは保健所などが個別に対応していたため相談は年数件だったが、センターの存在が知られるようになり、8月末までの4ヵ月間で59件に急増した。
既に7人の支援が始まっている。
総社市のひきこもり支援の原点は、2009年に始めた障害者の支援事業。
障害者手帳を持つ約3200人のうち、許可を得た約千人を訪ね、生活状況などを調べた。
すると特別支援学校を卒業後、何年も自宅から出ていない人が大勢いることが分かった。
親が高齢の場合も多く、センター長の中井さんは「障害者手帳がなければ、把握すら難しい」と危機感を抱いたという。
2015年から学者や福祉、教育関係者らによる検討会を開催。
国の調査は39歳以下だが、支援対象者の年齢に上限を定めず、「外出はできても、人と接することを避けている人」まで含めることにした。
昨年1月には民生委員らを通じた実態把握に着手。
地区ごとの人数や年齢、家庭環境も調べた
「畑で芋掘り」「一緒にゲームをする」。
ささいなことでも外に出るためのきっかけづくりに協力してくれるサポーターの養成講座を始め、約40人が参加した。
共同通信の都道府県アンケートでは「本人や家族が相談しないと周囲が関わるのは難しい」(長崎)、「他者への不信感や抵抗が強く、本人と接触できない場合が多い。 関係を築くまでに月日を要する」(千葉)との声が寄せられ、現場の苦労がうかがえた。
2009年度からは国の事業で、都道府県と政令市に「ひきこもり地域支援センター」の設置が進んだ。
だが相談内容を関係機関に振り分けるのが主な役割で、「本人たちに寄り添う伴走型の支援ができているわけではない」との指摘もある。
総社市が特に力を入れているのは、当事者や周囲にある「壁」を取り除くことだ。
検討会は本人や家族が自らを恥じる思いと、「怠け者」「怖い」という住民の誤解が、支援を阻むと分析。
「ひきこもりは社会構造のゆがみが原因で、本人や家族の責任ではない」と、市の広報誌などで意識的に呼び掛けている。
中井さんは「大切なのは、ひきこもりが社会全体の課題だと認識できるかどうかだ」と話している。