現在の不妊治療の主流は、精子や卵子、受精卵を体の外で扱い、人工的に受精や妊娠を促すというもの。
慶応大病院産婦人科、泌尿器科は男性不妊班がルーツであり、「ヒト精子取り扱い技術」を研究してきた。
具体的には、授精に使う精子を精液から選別し、さらに、その精子の機能や形を細かく検査することで、生まれてくる子供の健康につなげようという研究。
「不妊は、女性側の問題」とされがちだが、実は「男性側が原因で妊娠が難しいご夫婦」は、思っているよりずっと多いとのこと。
不妊の原因が男性にある場合、そのほとんどは精巣内で精子をうまく造れない「造精機能障害」。
まず一つ目のケースは、良い精子を造る正常な製造能力が、生まれつき一部しか精巣内にない場合。
二つ目は、生まれた後、様々な原因で製造能力に故障が起きた場合。
原因として、おたふくかぜなどの病気や強い薬の影響などがあるが、もっとも多いのは精索静脈瘤という血管の異常。
こうしたケースでは、故障の原因と程度により、精子の生産量が減ったり、形態や機能がおかしい不良品の割合が増えたりする。
三つ目は、精子の設計図、すなわち遺伝子に誤りがある場合。
一つ目と二つ目のケースでは、正常な製造能力がある程度残っていれば、研究してきた精子選別技術が力を発揮する。
三つ目の遺伝子の問題の場合、造られた精子に様々な異常が起き、重症になると精子をまったく造れない無精子症になる。
運動機能が正常な精子を選別したのに、高い割合で共通した異常を認める場合、遺伝子の問題が背景にある可能性が疑われ、できることは限られる。
病院で検査をするのは、悪いところを見つけるため。
検査項目が増え、その精度が向上すると、今まで見えなかった異常が見えてくる。
従来の基準では「良好」とされてきた精子でも、より細かく検査すると様々な異常が見つかる。
それが治せない異常である場合、それまで医師から「精子は大丈夫です」と言われてきた男性が突然、「妻を妊娠させられない夫」になってしまう。