病院で使う医療用マスクやガウンなど新型コロナウイルスの感染防護具の不足が深刻だ。
政府は2020年度補正予算案に買い上げ費用約1600億円を計上したが、足りておらず、雨がっぱや潜水用具などで代用するよう求め始めた。
防護具不足は院内感染の一因とされており、医療現場からは緊急事態宣言に伴う強制的な確保を求める声が上がっている。
院では通常、一度脱いだり、患者一人を見終わったりした防護具を捨てることで感染を防止している。着用を続けたり、着脱を繰り返したりすると、残ったウイルスが接触感染の原因となるためだ。
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で船内に入った厚生労働省職員の感染が相次いだ事態について、厚労省は汚染したマスクなどを何度も着脱したことが原因とみている。
政府は先行して緊急事態宣言が出された7都府県に対し、4月中に医療用のサージカルマスク約1千万枚などを配布する。
補正予算案ではサージカルマスク約2億7千万枚、密閉性の高いN95マスク約1300万枚、ガウン約4500万枚、顔全体を覆うフェースシールド約900万枚などを購入する。
一方、日本医師会(日医)の試算によると、全国の医療機関で1カ月に必要なサージカルマスクは4億~5億枚、N95マスクやガウン、フェースシールドはそれぞれ約3千万枚が必要で、不足の解消にはほど遠い。
さらに、品不足から「買い上げる時期のめどが立っていない」(厚労省)という。
厚労省は4月上旬、代替品=表=を積極的に活用することを求める通知を医療機関などに出した。
しかし、全国の勤務医でつくる労働組合「全国医師ユニオン」によると、1週間に1枚のマスクの使用や防護服代わりにごみ袋をかぶって勤務することはすでに全国の病院で常態化。
ユニオン事務局長で首都圏の病院に勤める男性内科医は「感染の恐怖によるストレスが大きい。 医療現場にコロナと戦う『武器』を配ってほしい」と憤る。
日医の横倉義武会長も「院内感染は防護具が不十分であることが一つの原因だ」として、政府に対応を求めている。
安倍首相は4月17日の記者会見で、防護具の不足について「本当に申し訳ない」と謝罪し「特に中国に大きく(輸入を)依存していた問題点もあった」と釈明。
4月15、16日には経団連や各企業などとのテレビ会議で増産を求めたが、不足は2月ごろから既に指摘されていた。
厚労省関係者は「需要の見通しが甘かったかもしれない」と打ち明ける。
全国自治体病院協議会の小熊会長は、緊急事態宣言に伴って都道府県知事に認められる医療品の強制収用など「強制的な手段を使ってでも行政が確保し、早急に配ってもらわないと、個々の病院での対応は限界がきている」と訴える。