【「木香薔薇(モッコウバラ)」】
煮え切らない雲が、 頭の上へ靠垂れ懸って居たと思ったが、 いつの間にか崩れ出して四方は 只雲の海かと怪しまれる中から、 しとしとと 春の雨 が降り出した。 ―― 時々風が来て、高い雲を払ふとき、 薄暗い山の脊が右手に見へる事がある。 【夏目漱石 「草枕」】 |
天気予報通り雨となりました。
尤も降り始めは少々、遅れましたが。
おまけに日射しがありませんから、
気温の割に寒く感じます。冷たい春の雨。
この雨で残っていた桜も、
完全に散ってしまった事でしょう。
「春やうやうけしきだつほどこそあれ、
をりしも雨風うちつづきて、
心あはただしく散り過ぎぬ」
~ 「徒然草」
(桜の咲く頃は、
天候が不安定で、
ともすれば花曇りや
花に嵐といった
天候になる。
だからこそ、
ひと時を惜しんで、
花の美しさを満喫
しようとし、勢い
余って、ついつい
ドンチャン騒ぎに
なり、花を見る事を
忘れてしまう)
この句には、
こんな意味が
あるようです。
それにしても
いつの世も人々の
気持ちは一緒ですね。
居間よりは遥かに
ゆったり流れていた
であろう時代である
にも関わらず、
季節の移り変わりの早さを感じる心も。
ところで、花冷えと言っても、時は春。
昨日はまだ蕾だった、シャガやチューリップ。
一夜にして、ここまで開花しました。
そう言えば、あの 【大山崎山荘】 。
このシャガが庭一面に咲いていましたっけ。
そして夏目漱石も、この山荘を訪れています。
その繋がりで今日は漱石の小説、
「草枕」 から、春の雨の件(くだり)を。
漱石の小説には結構、季節の描写がありますね。
親友、正岡子規の影響もあるのかも知れません。