雪の降る夜でした。
「オギャー、オギャー」
という元気な産声が、小さな病院中に響きわたりました。
廊下でひとり待っていたまだ若いお父さんは、その声を耳にしたとたん、イスからとびあがるように立ち上がりました。
手には握りこぶしができていました。
しかし、まだ若いお父さんはどうしていいのかわからず、しばらくぼうっとして立ったままでいました。
すると、カチャリとドアの開く音がして、看護婦さんがひとり廊下へ姿を見せました。看護婦さんはニコニコとやさしい笑顔をうかべながら、お父さんの方へやってきました。
「おめでとうございます。二千六百グラムの元気な男の子ですよ」
まだ若いお父さんは、おちついて小さくうなずきました。
「いま、お母さんのとなりに一緒にいますよ。お会いになりますか?」
看護婦さんが、生まれたばかりの自分の子を、ひとりの人間として思ってくれたことにお父さんはちょっとうれしく感じました。
そして、小さくうなずくと、看護婦さんのあとについて歩きました。
それは、ちょっとこわごわしそうな後ろ姿でした。
ベッドの上には、イチゴのように赤くて小さな手をした男の子が、元気に首をふっていました。
たったいま、お母さんとお父さんになったばかりの二人は、顔を見つめあいました。
若いお父さんは、若いお母さんにむかって
「ごくろうさま。ありがとう 」
といって、やさしく手を握りました。
そして、赤ちゃんの手もあわせて、三人の手を重ね合わせました。
ひとしずくの泪が、赤ちゃんのホッペにピトッとおちました。
お父さんはニッコリ笑うと、ポケットから小さな赤い箱をとりだしました。
そして、その箱のふたをちょっとだけ開けると、赤ちゃんとお母さんの枕もとにそっとおきました。
それは、小さなオルゴールでした。
キラキラとひかりかがやくような音が空気のなかにとけてゆきました。
不思議なメロディーでした。
まるで、お星さまがいっぱいお友だちをつれて、空からゆっくり降りてくるようでした。
三人に、おめでとう・・・を、言いに・・・。
窓の外では、粉砂糖のような白い雪が、もみの木にふうわりとつもっていました。
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