『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

リアルファンタジー『名人を超える』2

2022-08-30 07:32:24 | 創作

* 2 *

 

 個性が大事だといいながら、実際には、よその人の顔色を伺ってばかり、とういうのが今の日本人のやっていることでしょう。

 だとすれば、そういう現状をまず認めるところからはじめるべきでしょう。

 個性も独創性もクソも無い。

                      養老 孟司

 

 

「名人、こちらにもお願いします!」

 報道陣のフラッシュが幾重にも焚かれる中に、『永世八冠』という色紙を胸のあたりに掲げた父親が画面の中で微笑んでいた。

「ほーら。リュウちゃん、お父さんよ!」

 と、お膝に抱っこの幼さな子に、母親が画面を指さした。

 父と察してか、一歳になったばかりの竜馬は、ちっちゃな手のひらをパチパチと叩いた。

「あら。えらいわねぇ・・・。

 リュウちゃん、お手々パチパチ覚えたのね」

 母親は、まるで息子が父の達成したばかりの偉業に対して、自分に変わって家族代表で拍手を贈ったかのようにさえ思えた。

 思わず、その産毛のいい香りのする頭に頬ずりをした。そして、

(ソーちゃん、おめでとう!)

 と、心の中で祝福した。

 翌日のスポーツ紙は、どの社も一面

『史上初! 永世八冠達成!』

『前代未聞の偉業!』

 との最大限の賛辞を謳っていた。

 テレビのワイドショーも久々の明るいニュースで、将棋にはド素人のコメンテーターたちが歯の浮くような美辞麗句を並べていた。

 

〔おみやげ、何がいい?〕

 と、対局前夜に、ソータは愛妻にメールを送った。

 大一番の大事な前夜だというのに、さすがだなぁ・・・と、妻はなかば呆れもし、感心もした。

 今や現役当時の自分をも凌ぐほどのCMにもひっぱりだこで、時たま、家族の前でその映像が流れると、

(やっぱ、シロートくさいね・・・)

 と、自虐的に照れ笑いするのが、なんだか彼らしくって、幾つになっても可愛く感じるのだった。

 

 天才子役・名女優と賞されたのは、もう遠い過去のように愛菜には思えていた。

 そう・・・。あれは、前世のわたしだったんだ・・・。

 と、愛菜は時々、妙な錯覚のような感覚をおぼえることがあった。

 それは夫の桁外れな天才ぶり、棋界の記録を全て塗り替えた異星人のような業績の前には、自分のちっぽけなキャリアなぞ、もうどうでもよいことだった。

 それに、自分には、彼の大事な娘と息子がいた。それは、大袈裟でなく、命よりも大事な大事な宝物であった。 

 

 

*


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