ヘミングウェイの通いつめた(彼が座った席がちゃんと今も認識されています。)100年前と変わらぬ風情と味を守り続けるボティンの外装。有名店だけあって、大通りから一歩入ったこの店の前はツアーガイドが立ち止まって説明をしていたり、記念写真を撮ったりする人が引きも切らず訪れていた。
店名を掲げた看板やまるで板チョコのような分厚い木の扉など、特徴ある古めかしさも必見。
【働き者の店】
昔ながらの建物は落ち着いた雰囲気ながら、老舗のもったいぶった感じがなく、居心地よし。白い背広に蝶ネクタイのウエーターたちは、たとえば、こちらの様子を見てメニューをさっと出すなど、プロとしての気概十分。キビキビと動いて小気味いいほどです。なんというか人との距離の取り方が絶妙というか。
ヘミングウェイの初めての長編『日はまた昇る』にボディンがでていると知り、家に帰ってから読みました。そして、驚きました。この小説はやたらと実名のレストランが数多く出てくるのですが、小説の最も重要な、最後の最後に選んだレストランだったのです。
一人の女性と複数の男性が絡み合う恋模様がパリからスペインへと舞台を移して展開していくのですが、その最終章がマドリード。その町で再びあった主人公の男性と傷心のヒロインが二人で話しながら場所を次々と移動し、最後に男性がとっておきの場所としてエスコートする店でした。
「ぼくらは“ボティン”の2階で昼食をたべた。ここは世界で最良のレストランの一つだ。子豚の照焼を食べて、ナヴァール地方のワイン、“リオハ・アルタ”を飲んだ。」
(高見浩訳、新潮文庫、2003年)
そして二人はウェイターにタクシーを呼びに行ってもらい、乗るときにそのウェイターにチップを渡して、タクシーに乗り、社内で会話しながら小説は終わります。
ウェイターの動きのよさもしっかりと書かれています。当時も今もそれは変わらないのでしょう。ヘミングウェイが、どれだけこの店にほれ込んでいたのかがよくわかります。
(つづく)
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