写真はソールズベリー大聖堂の外観。遠くからみると、さっぱりとした古風な教会に見えるが、近づくとさまざまな彫刻に彩られていた。
【『日の名残り』の象徴にも】
さて、オールドセーラムをへた先は、まるで中世。
緑したたる世界の中央には現在のイギリスの教会建築では最も高い123メートルの石造りの塔がそびえるソールズベリー大聖堂があります。
ゴシック建築らしく、こってりとした聖人の像が彫りこまれた正面、側面には軽やかな植物が生えたようなアーチ型回廊が続いていて荘厳そのもの。広々として薄暗い聖堂内の床は、この聖堂に限った話ではないのですが、多くの方々の墓石がはめ込まれていて、踏まないように歩こうとするのが困難なほど。
まあ床なのですから当然、踏んでもいいのですが、日本で育った私の身体が自然に忌避してしまう。欧米の観光客は普通に下を気にもせずに歩いている様子をみると、死体や死後の世界の考え方がずいぶん違うのだなあ、と思わずにはいられません(参考:上田信著『死体は誰のものか』ちくま新書、2019年)
この教会は、ヨーロッパの教会には珍しく主要な建物は38年で出来上がりました。十分長い年月のようにも感じますが
(日本では伊勢神宮が「式年遷宮」という20年に一度、建て替えることを考えると38年だと2クール目の準備に入っています!)、
短期間で完成したことが特徴の一つとされています。つまり様々な時代の建築様式が混在することなく統一感をもった聖堂となっているのです。
ソールズベリー大聖堂。
ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロの小説『日の名残り』では主人公の執事が最初にドライブで落ち着く場所がソールズベリーです。その場面では素朴な住民が大聖堂のある景色のよさを語っています。そしてくつろいだ雰囲気の中、主人公が散歩する街のどこからでもみえる、美しい夕日と印象的な尖塔。まさに題名を象徴するかのような重要な場面です。
イギリス人にとっても納得のあこがれの地であり、建物なのでしょう。
(つづく)
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