写真はトレドで最も有名な名所であるサントトメ教会とカテドラルをつなぐ道沿いの小さな教会エル・サルバドール教会(Iglesia del Salvador)。古代ローマ時代の遺跡の上に建っていて、壁はローマ後期から西ゴート時代に建てられたままのもの。建物全体は9世紀のイスラームのモスクで、その後、塔を建てて教会とした。教会に設置された解説文には「初期キリスト教会もしくは西ゴート時代の教会の形態を残すユニークなピラスター(壁の一部を張り出した柱形)などが見て取れる」と書かれている。見落としがちだが、ローマ時代の生の遺構を見ることもでき、トレドの複雑な歴史を体感できる。
【フランコの後継指名の時期に開館】
スペインの人にとってはどうやら常識らしいのですが、私自身が西ゴートをあまりにも知らなすぎると思ったので、もう少し調べてみました。するとスペインにとって特別な意味を持つ国だとわかってきました。
西ゴート王国はスペインで最初に築かれたキリスト教国です。そのため
「スペイン・ナショナリズムの文脈で繰り返し参照される存在であり続けている。」(※1)
のだそうです。
アルフォンソ6世が1085年にトレドを攻め落としました。これをスペインでは「奪還」と表現します。たんに堅固なイスラム拠点を落としただけはなく「かつて西ゴート王国の首都であったトレドを取り戻した」(※2)ことを意味しました。つまり、イスラム側にとってもキリスト教側にとってもレコンキスタの文脈でたいへんなインパクトがあったのです。
となると、この博物館の成立年が気になってきました。するとやはり、意味ありげな年月日が浮かんできました。
西ゴート博物館がトレドに建設されることが法令化されたのが1969年5月6日。この年は長くスペインを独裁していたフランコ(将軍)が、後継者に前国王の孫、ファン・カルロスを指名した年です。その時の公告を(グーグル翻訳で)読むと、
「西ゴート時代は伝統的なスペイン人の団結精神の基層をなす」(※3)
と定義した上で、
「そのためこの博物館をトレドに設置する」
と書かれています。実際に翌年に開館しました。
※1 『スペインの歴史を知るための50章』立石博高、内村俊太編著、明石書店、2016年10月
※2『一冊でわかるスペイン史』永田智成、久木正雄編著、河出書房新社、2021年3月
※3 州官報:https://www.boe.es/boe/dias/1969/05/06/pdfs/A06778-06778.pdf
(つづく。次回はモーロ博物館です。)
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