(注)本シリーズは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0420OilMajor2017-2ndQtr.pdf
2017.8.17
前田 高行
1.五社の1-3月期業績比較 (続き)
(3)売上高利益率 (図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-53.pdf 参照)
売上高利益率はExxonMobilが5.3%と最も高く、Total 5.1%、Chevron 4.2%、Shell2.1%と続いている。利益率が最も低いのはBPの0.3%である。前年同期はChevronがー5.0%と最も低く、BPの利益率もマイナス(-3.1%)で、もっとも高い利益率を誇ったTotalは5.6%であった。今期は全社が利益を計上したが、利益率はExxonMobil、Shellが5%台であったのに対しShell、BPは両社との格差が大きい。
JXTGの売上高利益率は0.9%にとどまっており、BPよりは良いがExxonMobil、Total、Chevronなどに比べて大きく見劣りする。
(4)上流部門と下流部門の利益
(a)上流部門
(図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-56.pdf参照)
利益を上流部門(石油・天然ガスの開発生産分野)と下流部門(石油精製および製品販売分野)に分けて比較すると、まず上流部門では前年同期はTotalとExxonMobilの2社は利益を計上したが、その他の3社はマイナスであった。今期はShellが引き続き欠損であったが、他の4社は利益を計上している。この1年の間に原油価格が改善したこと、及び各社が上流部門の投資ポートフォリオを見直したことにより各社とも上流部門の損益が好転していると言えよう。
5社の中で今期の上流部門の利益が最も多かったのはTotalの14億ドルでこれに次ぐのがExxonMobil 12億ドルであり、Chevron及びBPが8億ドル前後で並んでいる。Shellのみは今期も5億ドルの赤字を計上している。
JXTGの上流部門の利益は31億円であり、ドルに換算すると29百万ドルとなる。これはTotalあるいはExxonMobilの2%程度であり、またBP、Chevronの4%どまりである。後述する生産量の比較で示すが、JXTGの石油・天然ガスの生産量は国際石油企業5社に比べ30分の1以下であり、これが利益面でも大きな格差となっている。
(b)下流部門
(図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-57.pdf参照)
下流部門は今期も好調で全社利益を計上している。利益額が最も大きいのはShellの22億ドルであり、次いでBPが16億ドルの黒字を計上している。その他の3社の下流部門の利益は、ExonMobil 14億ドル、Chevron 12億ドル、Total 9億ドルである。前年同期比では各社で明暗が分かれた。ExxonMobilは70%の増益であり、またShell 及びBPも増益であるが、Chevron及びTotalの2社は前年同期より利益が減少している。下流部門は原油価格の上昇が原料のコストアップとなり上流部門とは正反対の効果をもたらすことになるが、製品価格への転嫁、製油所の効率化・集約化など企業努力の結果が各社の下流部門の業績に反映しているようである。
JXTGの下流部門の利益は225億円(2億ドル)であり、五社の5分の1から10分の1程度とかなり低い水準である。日本の石油産業は構造的な過剰設備と過当競争のため製品末端価格の利幅が小さく利益の出にくい体質である。その対策として今回のJXTGの合併のように設備の集約化と薄利多売の改善を図り、あるいは一部の企業は東南アジアへの進出を進めている。日本のエネルギー産業のためには安定して収益を上げることができる強い体質を築き、世界の石油企業に伍していくことが望まれる。
なお冒頭(1-(2))の総合損益は各社によって石油化学品部門あるいはその他の損益を含むため上・下流部門の利益の合計額とは一致しないケースがある。
(c)上流部門と下流部門の比較
各社の上流部門と下流部門の損益を比較すると、ExxonMobil、Shell、BP及びChevronの4社は下流部門が上流部門を上回り、Totalのみは上流部門の利益が下流部門のそれを上回っている。かつて石油価格が高かった時代は国際石油企業は利益の大半を原油・天然ガスの生産(上流部門)で稼ぎ、精製、石油化学など(下流部門)の低収益を補うという収益構図であった。その後昨年前半までの約2年間は原油価格が大幅に下落したため収益構造が逆転、上流部門の利益が急減する一方、精製、石油化学部門は原料の原油・天然ガス価格が急落したため利益の出る体質に変化した。しかし、昨年後半以降は原油・天然ガス価格が持ち直しており、各社とも上流部門と下流部門の収益が変動しつつあり、それが今期の決算に表れたと言えよう。
(続く)
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