2.サウジアラビアとロシアが描いた8月以降のシナリオ
今回、ロシアは中国、米国などで景気が上向き石油需要が回復しているとして更なる減産緩和を主張した。一方のサウジアラビアは変異株の蔓延でコロナ禍終息が見通せず拙速な増産には消極的であった。両国は事前協議により、(1)8月以降12月末までの間に200万B/D(毎月平均40万B/D)増産すること、(2)来年1月以降も1年間協調減産を続けること(減産量は未定)を合意した。
これまで同様サウジアラビアとロシアの事前協議がそのまま7月1日のONOMMで承認される見通しであったが、これに抵抗したのがUAEであった。会議は2日、さらに5日と二度にわたり延期されたが結局UAE一国の反対によりONOMMは流会となった。
UAEは年内の200万B/D緩和には同意している。また減産率は平等でありUAEに特に不利な訳ではない。反対の理由は自国の参考生産量(3,168千B/D)が低すぎ、その結果生産割当が不当に抑えられていると言う主張である。ただ各国の参考生産量は昨年5月の協調減産開始時に当時の各国の実生産量をベースに決定されたものである。UAEが生産量の見直しを求めるのは自国の将来の石油戦略にあると考えられる。
3.UAEが生産枠拡大にこだわる理由 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-2-11.pdf参照)
UAEは2030年までに原油生産能力を現在の380万B/Dから500万B/Dに拡大する計画である。昨年々央まで世界ではエネルギー安定供給のため石油・天然ガスの開発推進が叫ばれていた。UAEはこの流れに乗った訳である。しかしその後、米国大統領選挙でバイデン民主党政権に代わってから炭酸ガスによる地球温暖化防止の動きが加速し、2050年カーボンニュートラルが世界の潮流になった。そして5月にはIEA(国際エネルギー機関)が石油の新規開発投資のストップを呼びかけると言う、これまでとは正反対の衝撃的なレポート(Net Zero by 2050)を発表した。
これは石油産業の命運を左右するものである。流れに逆らえない民間企業のExxonMobil、Shellなどは、太陽光、風力など自然エネルギーの開発に拍車をかけ、あるいは石油よりも炭酸ガス排出量の少ない天然ガス資源の獲得に舵を切った。しかし現実問題として石油がエネルギーの主役の座を降りるまでにはタイムラグがある。
これは裏を返せば民間企業の生産削減により一時的にOPEC+を含む産油国に対する石油の需要が増えることを意味する。これが石油以外に外貨獲得手段を持たないUAEが増産に走る理由の一つと考えられる。そしてUAEにはもう一つ隠された事情がある。それはUAEが天然ガス資源を持っていないことである。天然ガスは石油より炭酸ガス排出量が少ない環境にやさしいエネルギーである。UAEはすでに発電・造水用燃料として天然ガスを隣国カタールから輸入しており、今後は世界からLNGを輸入することも検討している。天然ガスを輸入するには外貨が必要であり、それは石油輸出によって賄う他ない。つまりUAEは天然ガス輸入のため石油を増産する必要があるのである。
このパラドックスを抱えたUAEはOPEC+の中でこれからも生産枠の見直しを主張し続けるつもりであろう。
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荒葉一也