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(目次)
プロローグ(7)
007.中東を流れる三つのアイデンティティ(2/3)
都市化が進んだ近代国家では「核家族」の言葉に代表されるように、血のつながりは家族もしくは親族どまりであり、「一族」、「部族」などは死語に近い。最も大きな概念である「民族」という言葉は今もよく使われるが、それは政治のスローガンとして利用されることが多い。これに対して中東(特にアラブ民族の間)ではこの「血」のアイデンティティが今も末端の庶民からトップの権力者まで広く意識されていると言えよう。
「血」のアイデンティティがDNAとして受け継がれる先天的なものであるのに対して「心」と「智」のアイデンティティは後天的に得るものである。「心」とは信仰心のことであり、「智」とは政治思想あるいは主義主張を指す。
中東で信仰と言えばイスラームが圧倒的な影響力を持っている。アラブ民族、トルコ民族、ペルシャ民族などもほとんどがイスラームの信者(ムスリム)である。もちろん中東の人々の中にはエジプトのコプト教徒のようなキリスト教信者もいればユダヤ教徒の国イスラエルもある。ムスリム、キリスト教、ユダヤ教はともに一神教という共通点を有するが、むしろそれ故にこそ互いに反発し憎しみ合う長い歴史がある。特に中東におけるイスラーム国家群とユダヤ教国家イスラエルとの対立は今も先の見えない状況である。
さらに現代中東のイスラームにはスンニ派とシーア派という宗派による対立があり、或いは同じ宗派の中でも原理主義と穏健派の対立もある。宗派による対立あるいは教義の解釈をめぐる厳格派と穏健派との対立があるのは何もイスラームに限ったことではなく、西欧中世のカソリック対プロテスタントの宗教戦争もその一例である。しかし中東では近代西欧文明が浸透し、インターネットが発達したグローバリゼーションの現代において未だに(あるいは漸くと言うべきか)宗教の対立が先鋭化していることが大きな問題なのである。
(続く)
荒葉 一也
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