石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計2020年版解説シリーズ石油篇(2)

2020-06-22 | BP統計
BPが恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2020」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。

1.世界の石油の埋蔵量と可採年数(続き)
2.2000年~2019年の埋蔵量と可採年数の推移
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-1-G02.pdf 参照)
 各年末の可採埋蔵量は、[ 前年末埋蔵量 + 新規発見(又は追加)埋蔵量 - 当年中の生産量]、の数式で表わされる。従って埋蔵量が停滞することは新規発見又は追加埋蔵量と当年の生産量が均衡状態にあることを示し、また可採年数が短くなることは石油資源が枯渇に近づいていることを示している。

(2017年以降埋蔵量は頭打ち!)
(1)埋蔵量の推移
 2000年の可採埋蔵量は1.3兆バレル弱であったが、2000年代後半には埋蔵量の増加に拍車がかかり2007年には1.4兆バレル、そして2010年には1.6兆バレル強に達した。しかし2010年代に入ると伸びは鈍化し、2017年に1.7兆バレルを超えた後は停滞している。2019年の埋蔵量は1兆7,340億バレルであり、わずかながら前年より低下している。

2000年代は中国、インドなど開発途上国の経済が拡大し、それにつれて石油需要がほぼ毎年増加している。それにもかかわらず各年末の埋蔵量が増加したのは石油価格が上昇して石油の探鉱開発のインセンティブが高まった結果、新規油田の発見(メキシコ湾、ブラジル沖、中央アジア等)のほか非在来型と呼ばれるシェール・オイルの開発或いは既開発油田の回収率向上により埋蔵量の増加が消費量の増加を上回ったためと考えられる。

しかし2010年代は石油需要の増加と、それによる石油価格の上昇、さらにその結果としての石油開発の促進と埋蔵量の増加と言う従来の単純な図式通りに進まなくなった。その理由の一つは環境問題の観点からエネルギー源を石油から天然ガス、さらには再生可能エネルギーに転換する動きが強まっている。さらにはITを核とする産業構造の省エネ化が進み、産業の発展が必ずしも石油需要の増大につながらなくなっているからでもある。また今年前半に世界を襲ったコロナウィルス禍では世界の産業全体が大きな打撃を被り、それが石油消費の減少にも多大な影響を及ぼしている。すでに一部の産油国及び石油企業は投資の見直しを行っており、これらのことが今後の確認埋蔵量の変化として現れることは間違いないであろう。

(50年を境界に微妙に上下する可採年数、今後の動向は?)
(2) 可採年数の推移
可採年数(以下R/P)とは埋蔵量を同じ年の生産量で割った数値で、現在の生産水準があと何年続けられるかを示している。2000年に47.5年であったR/Pは半ばの2005年、2006年に45.9年まで下がったが、その後大きく伸び2011年のR/Pは54.5年に達している。しかし2012年以降は可採年数は短くなり2018年及び2019年のそれは49.9年と50年を割り込んでいる。

2018年の埋蔵量は1兆7,360億バレル、生産量9,525万B/DR/P49.9年でありR/Pは49.9年であった。これに対して2019年末は埋蔵量1兆7.340億バレル、生産量9,520万B/DでR/Pは前年と同じ49.9年である。2019年は生産量、年末埋蔵量ともに2018年より減少する中でR/Pは同じ結果を示している。今年(2020年)はコロナウィルス禍で石油の生産量は消費量に連動して減少、探鉱投資の抑制で埋蔵量の増加が期待できない状況にある。今後可採年数が50年からさらに下がるのか、それとも反転して上昇するのか、R/Pは石油産業そのものの盛衰を占う数値になる可能性がある。

かつて石油の生産が限度に達したとするオイル・ピーク論が声高に叫ばれ、石油資源の枯渇が懸念された時期があった。理論的には石油を含む地球上の炭化水素資源は有限である。しかし大きな潮流として石油から天然ガスあるいは再生可能エネルギーへの転換、あるいは省エネによる石油消費の減少(即ち生産の減退)がある。また一方では米国のシェール石油開発に見られる非在来型石油開発技術の進歩もある。これらを勘案すると当面石油資源そのものには枯渇の不安は無いと言えよう。

現代における石油問題はむしろイラン、ベネズエラの経済制裁に見られる国際政治のリスク、或いは治安が不安定なリビア、ナイジェリアのような産油国の国内リスク等の人為的なリスクと言えそうである。

(続く)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp


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