石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

石油と中東のニュース(8月18日)

2021-08-18 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・世界経済回復などで天然ガス需給タイトに。中国が日本追い抜き世界一に:バンカメレポート。 *

*「BPエネルギー統計2021年版天然ガス貿易」参照。(本ブログで連載中)

(中東関連ニュース)

・アフガニスタン、タリバン幹部が記者会見:復讐せず。女性は尊重する

・イラン外相、中国のアフガン問題特使と会談

・トルコ、アフガン混乱で新たな難民流入を懸念。イラン国境の壁建設促進

・独、退避用軍用機3機をアフガンに派遣するも空港混乱で1機のみ着陸

・タリバンはアルカイダを表立ってではなく密かに支援する:仏専門家

・茂木外相、エジプト大統領を表敬訪問。アフガン問題などで意見交換

*外務省「茂木外務大臣の中東諸国訪問」参照。

・イラン、ナタンズでウラン濃縮、核兵器製造に近づく:IAEA

・電力危機のレバノン、都市部は真っ暗闇

・エジプトの海外出稼ぎ送金、過去1年間で285億ドル

・クウェイト、赤字削減のため海外医療ツアーなど各種補助削減

・サウジアラムコ、印Relianceの精製・石化買収が大詰め

 

 

 

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(再掲)SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(3)

2021-08-16 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

初出:2010.7.19

パイロットのもう一つの敵

空を自由に飛び回りたいと言う人間の本能的欲求を現実のものにするのがパイロットである。パイロットが昔から男たちの憧れる花形の職業であったことは洋の東西を問わない。特に戦闘機のパイロットは祖国防衛、敵との交戦と言う愛国心と闘争本能が加わり一層花がある。日本の零戦、ドイツのメッサーシュミットとそのパイロット達は敗戦後もなお国民の郷愁をかきたてる英雄である。戦勝国の米国が作る戦争映画でも日独の戦闘機パイロットが悪役にされた映画は無い。地上戦で敵国の将軍や兵隊が冷酷極まりない悪人として描かれているのとは対照的である。

 

イスラエルでも空軍パイロットは憧れの的だ。彼らは度重なる中東戦争で大活躍し祖国の勝利に貢献した。しかし21世紀に入るとその風向きが変わり始めた。20世紀前半の第一次、第二次世界大戦は国家間及び大陸間の戦争として戦闘機が主役となった。第二次大戦後の東西冷戦下でも朝鮮戦争、ベトナム戦争など世界各地で米国とソ連がバックアップする国家間の紛争が続発、そこでは戦闘機の性能が競われた。ところが21世紀は国家間の紛争は局地的なものとなり、代わって宗教色の強いテロ活動、即ちイスラム・テロ活動が世界各国に頻発した。

 

テロ活動は多くの場合、人口が密集した都市部で発生する。テロ組織も一般市民を装って日常活動を行う。しかも活動拠点が常に移動する。戦闘機は敵国の首都、空港、軍需工場など目標の所在が明確な施設を迅速に爆撃することが得意である。しかし頻繁に移動するテロの軍事拠点或いは都市に潜むテロ組織幹部に対する急襲などは治安部隊など地上軍の出番である。空軍が出動するとしてもアパッチ型ヘリコプターによるロケット砲攻撃がせいぜいであり、スピードが速いだけで全く小回りが利かない戦闘機の出る幕はない。

 

21世紀に入り出番の無くなった戦闘機とパイロット達はイスラエル軍の中で次第に厄介者扱いされるようになった。実は彼らにも一度だけ出撃のチャンスがあった。2003年のイラク解放戦争である。イスラエル政府と軍部はイラク解放軍への参加を米国に打診した。しかし当時のブッシュ政権は親イスラエル色が強かったが、世界世論の手前イスラエルの申し出をやんわりと断った。解放戦争が始まって間もなくイラクのフセインはスカッドミサイルをイスラエルに撃ち込んで挑発した。イラクのミサイルはイスラエル占領地のヨルダン川西岸に着弾しただけで被害と言えるほどのものは何もなかったが、イスラエルにとってはそんなことは問題ではない。口実さえあれば敵を徹底的に叩くのがイスラエル流のやり方である。空軍は直ちに応戦体制を敷き、戦闘機のパイロット達はバグダッド空襲に勇み立った。

 

しかしこの時も米国はイスラエルの反撃を許さなかった。もしイスラエルの参戦を認めれば「独裁者からのイラク解放」と言う大義名分で同盟軍に参加させたパキスタンなどのイスラム諸国、或いは陸上部隊の自国通過を認めたサウジアラビア、クウェイトなどの湾岸諸国から反発を受けることが明らかだったからである。

 

こうしてイスラエル空軍のパイロットたちはCNNテレビでバグダッド空襲の実況中継を眺めるだけであった。戦闘機から発射されたミサイルが目標に向かって真っすぐ突っ込む様子、そして上空で目標攻撃の瞬間をとらえた偵察機からの映像をCNNは繰り返し放映した。テレビ・ゲームのように見えて実はゲームではない本当の戦争が行われているのであるが、それはバグダッド市民以外は誰も痛みを感じない世界であった。

 

 さらにイスラエル国内に戦闘機部隊を無用の長物とみなす意見が拡がっていた。現在の主力戦闘機F15、F16は既にかなり老朽化している。イスラエル空軍は米国が開発した最新鋭超音速戦闘機F22、通称ステルス戦闘機ラプターがのどから手が出るほど欲しかった。ステルスなら敵のレーダーや赤外線追尾装置に捕まる可能性が低い。ラプターを開発した米国メーカーもユダヤロビーと結託してイスラエルへの輸出を政府に働きかけた。イスラエルの隣国サウジアラビアもラプター導入に熱心であった。こちらはオイルマネーをちらつかせ、米国の言い値で購入すると持ちかけた。ラプターは1機2億ドル以上もする超高値であるが、サウジアラビアにとってはたいした出費ではない。

 

しかし米国の兵器輸出には一つの鉄則がある。最新兵器は常にイスラエルが中東で最初の顧客で無ければならないという鉄則である。ユダヤロビーは米国製最新兵器がイスラエルよりも先にアラブ諸国に渡ることを決して許さないのである。まずイスラエルが導入すればその後米国議会はサウジアラビアなどアラブ諸国への輸出を承認する。それは米国兵器産業を支援することになり、また競争相手のフランスやロシアを阻止するためでもある。しかし今のイスラエルにはラプターを導入する財政的余裕がない。

 

現在のイスラエルはハマスやヒズボラーなどイスラム過激派組織と間断のない戦いを強いられ戦費は増える一方である。国防予算がGDPの8%以上を占め財政を圧迫している。半世紀以上続く準戦時体制で一般国民も嫌気がさし始めている。1機2億ドルもするステルス戦闘機の購入に国民は拒否反応を示したのである。

 

さらにイスラエル空軍パイロットを脅かすもう一つの兆候がイスラエル国内にもあった。無人爆撃機の開発である。IT産業の発達したイスラエルではIT技術を軍需産業に応用する研究も盛んである。その一つとしてパイロットを必要としない低コストの無人爆撃機の開発が進められ、既に実用化段階に達しつつあった。そうなれば空軍の戦闘機部隊はIT技術者と整備士が基幹要員となる。パイロットは地上戦の負傷兵を病院に搬送するためのヘリコプター要員だけで十分であり、戦闘機のパイロットはお払い箱である。

 

戦闘機による有人爆撃は無用のものとなりつつあった。中東戦争で活躍し今は指導教官となっている先輩パイロットはもとより現役パイロット達の焦りの色は濃くなり、戦闘機部隊の存在感をアピールする必要があった。今回のイラン空爆は焦燥に駆られた空軍のごり押しとも言える作戦計画の結果であった。幹部の中には今回のイラン作戦が最期の有人爆撃になるかもしれないと覚悟した者もいたのである。

 

(続く)

 

荒葉一也

 

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石油と中東のニュース(8月16日)

2021-08-16 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

(中東関連ニュース)

・アフガニスタン:タリバン、首都カブール大統領府を占拠

・アフガニスタン大統領、隣国タジキスタンに出国

・米大使館職員救出のため海兵隊3千名増派

・英独などカブール大使館閉鎖、大使館員の出国に全力

・イラン外相:アフガニスタンの平和的な権力移行を望む

・イラン、アフガニスタンの領事館業務をMazari-Sharifからカブールに移転

・サウジ株式市場、油価高騰の影響。2008年1月以来の高値

・エジプト、工業高専教育制度で日本と協力事業

 

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コロナ禍は乗り越えたが岐路に立つ国際石油企業:2021年4-6月期決算速報 (3)

2021-08-16 | 海外・国内石油企業の業績

2.売上高[1]

(全社が前年同期の2倍前後の増収!)

(1)当期売上高 (図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-51.pdf 参照)

2021年4-6月期の売上高は5社の中ではExxonMobilが677億ドルと最も多くShell が605億ドルで続いている。TotalEnergiesはExxonMobilより200億ドル強少ない 470億ドルであり、bp及びChevronは約300億ドル少なく、bpが376億ドル、Chevronは361億ドルであった。

 

ExxonMobilの売上高を100とした場合、Shellは89、TotalEnergies 69、bp56、Chevron53であり、Chevronの売上高はExxonMobilのほぼ半分である。前項で触れた通り利益面ではExxonMobil、Shell、Chevron、bp、TotalEnergiesの順である。ExxonMobil及びShellは利益、売上共1,2位を占めているが、売り上げ規模3位のTotalEnergiesは利益面では5社中の最下位である。

 

前年同期(2020年4-6月期)と比較すると、Chevronは2.3倍、ExxonMobilは2.1倍であり、その他の3社も1.8倍の増収であった。

 

(ほぼ原油価格に連動した各社の売上高!)

(2)2019年7-9月期以降今期までの売上高の推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-61.pdf 参照)

 2019年7-9月期から今期(2021年4-6月期)までの売上高の推移を見ると、2019年第3四半期の売上高は895億ドルのShellを筆頭に、bpが683億ドル、ExxonMobil650億ドルと続き、TotalEnergiesは486億ドル、Chevronが348億ドルであった。

 

その後、2019年第4四半期から2020年第2四半期にかけて各社とも売上高が急激に減少した。2020年第2四半期は新型コロナ禍の影響で経済活動が大きく減速し、各社は販売価格及び販売量の両面で過去2年間では最も厳しい売上減少を強いられた。この期の売上高はExxonMobil、Shellが330億ドル、TotalEnergiesは260億ドル、bp210億ドル、Chevron160億ドルであり、各社押しなべて2019年7-9月期の5割乃至3割にとどまっている。

 

その後は各社によって多少のばらつきはあるものの、売り上げは4期連続して増収となり、今期(2021年4-6月期)はExxonMobil及びChevronは2019年7-9月期を超えており、TotalEnergiesもほぼ回復している。但しbp及びShellの売上高は6割前後の水準にとどまっている。

 

売上高の変動に大きな影響を与えるのが原油価格であるが、代表的な油種であるBrent原油の各四半期の平均価格を見ると以下の通りであった(価格はドル/バレル)。

 

62.00ドル(’19年7-9月期)→63.08ドル(‘19年10-12月期、前期比+1.7%)→50.06ドル(‘20年1-3月期、前期比▲20.6%)→29.55ドル(‘20年4-6月期、前期比▲41.0%)→42.94ドル(‘20年7-9月期、前期比+45.3%)→44.16ドル(‘19年10-12月期、前期比+2.8%)→61.12ドル(‘20年1-3月期、前期比+38.4%)→68.97ドル(‘21年4-6月期、前期比+12.80%)

 

これに対して5社の対前期比売上高の平均増減比率は、+0.6%(‘19年10-12月期)→▲25.5%(‘20年1-3月期)→▲41.6%(‘20年4-6月期)→+53.9%(‘20年7-9月期)→▲2.9%(‘19年10-12月期)→+23.5%(‘21年1-3月期)→+10.0%(‘21年4-6月期)であった。両者を比較すると全期間を通じて売上高と原油価格との相関関係が極めて高いことがわかる。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

 

[1] 「売上高」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil:Total revenues and other income          

Shell:Total revenue and other income         

bp:Total revenue and other income

TotalEnergies:Sales         

Chevron:Sales and other operating revenues           

 

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BPエネルギー統計2021年版解説シリーズ15(天然ガス貿易篇1)

2021-08-15 | BP統計

5.世界の天然ガス貿易

(天然ガス貿易にはパイプラインとLNGの二つのタイプがある!)

(1)はじめに:天然ガス貿易の二つのタイプ

天然ガスは石油と異なり大気中に拡散することを防ぐため密閉状態で搬送しなければならない。この場合輸送方法によりパイプラインで気体状のまま搬送する方法若しくは液化して特殊な船(LNGタンカー)や運搬車で搬送する二種類がある。パイプライン方式は常温で気体状のガスを生産地と消費地をパイプで直結して搬送するものであり、LNG方式は生産地で極低温で液化したガスを密閉容器で消費地に搬送するタイプである。

 

パイプラインによる貿易は古くから行われている。但しパイプラインを敷設するためには生産地と消費地が陸続きであるか比較的浅い海底(又は湖底)であることが条件である。パイプラインによる天然ガス貿易が広く普及しているのが北米大陸の米国・カナダ間の貿易である。ヨーロッパ大陸でもオランダ産の天然ガスを各国に輸出するための天然ガスパイプライン網が発達し、同国の生産が衰退するに従い新たな供給地としてロシア及び中央アジア諸国とのパイプラインが敷設され、或いは地中海を隔てた北アフリカとの間で海底パイプラインが敷設され、現在ではこれらのパイプラインが欧州における天然ガス貿易の中心を成している。

 

これに対して天然ガスの生産地と消費地が離れており、しかもその間に深海の大洋がある場合は両者を結ぶパイプラインを敷設することは不可能である。そのために開発されたのが天然ガスを極低温で液化し容量を圧縮し効率よく輸出するLNG貿易である。LNGは生産現地における液化・積出設備、LNG運搬専用タンカー並びに消費地における積卸・再ガス化設備のための高度な技術と多額の設備投資が必要である。そのためにも顧客との長期的かつ安定的な販売契約が事業の成立と継続のための重要条件である。

 

このような制約のためLNG貿易の歴史は比較的新しく本格化したのは中東のカタールと日本の間で1997年に始まった事業からである。なお最近ではLNGのスポット取引が普及しつつあるが、三国間貿易を行う国ではLNGタンカーの確保あるいは中間貯蔵・入出荷設備の建設等に原油の場合とは比較にならない多額の初期費用がかかることに変わりはない。

 

(続く)

 

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        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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石油と中東のニュース(8月14日)

2021-08-14 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・コロナ変異株蔓延で石油需要停滞。Brent $71.13,WTI $68.95

・イラン新石油相、石油・ガス開発総合計画を公表

(中東関連ニュース)

・アフガニスタン:タリバン怒涛の進撃、首都カブールに25KM

・レバノン、燃料危機で政府施設操業停止。ガソリンスタンドに長蛇の列

・カスピ海の水位は年間5-10cm低下:イランレポート

・オマーン:官民にShell、BP等13社結束して水素サプライチェーン創設

 

 

 

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今週の各社プレスリリースから(8/8-8/14)

2021-08-14 | 今週のエネルギー関連新聞発表

8/8 Aramco

Aramco announces second quarter and half-year 2021 results

https://www.aramco.com/en/news-media/news/2021/saudi-aramco-h1-2021-results

 

8/10 ENEOS

当社製油所において有機ハイドライド(MCH)から水素を取り出す実証を開始します! ~国内初の既存装置へのMCH投入実証~

https://www.eneos.co.jp/newsrelease/20210810_01_01_1103035.pdf

 

8/10 INPEX

2021年12月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)

https://www.inpex.co.jp/ir/library/pdf/result/result20210810.pdf

 

8/11 INPEX

幹部社員の人事異動について

https://www.inpex.co.jp/news/assets/pdf/20210811.pdf

 

8/11 INPEX

新東京ライン延伸(第五期)の決定について(お知らせ)

https://www.inpex.co.jp/news/assets/pdf/20210811_b.pdf

 

8/13 ENEOSホールディングス

2022年3月期  第1四半期決算短信

https://www.hd.eneos.co.jp/ir/library/statement/

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BPエネルギー統計2021年版解説シリーズ14(自給率2)

2021-08-13 | BP統計

4.主要国の石油・天然ガスの生産・消費ギャップと自給率 (続き)

(2) 天然ガスの生産・消費ギャップ(差)及び自給率の推移(2010~2020年)

(4-2)天然ガス

(年々輸出余力が増すロシア、オーストラリア及び米国!)

(4-2-1)主要国の生産・消費ギャップ

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/4-2-G01.pdf参照)

 2010年におけるロシアの天然ガス生産量は5,980億㎥、消費量は4,240億㎥で、生産が消費を1,750億㎥万B/D上回っていた。カナダ、オーストラリアはロシアほど多くはないがやはり生産量が消費量を580億㎥及び210億㎥上回っていた。

 

 これに対して米国は生産量5,750億㎥、消費量6,480億㎥で、差引▲730億㎥を隣国カナダから輸入していた。中国及びインドも天然ガスの純輸入国であり、共に消費が▲120億㎥前後生産を上回っていた。

 

 その後2020年までロシア、カナダ、オーストラリアは引き続き生産が消費を上回った。このうちオーストラリアは生産が急拡大し、2020年の生産量は2000年の2.7倍、1,430億㎥に達した。ロシアとカナダの増加率は1.1倍にとどまり、一方消費量はロシアが停滞、カナダが1.2倍に増加している。因みに2020年のロシアとオーストラリアの生産余力は各々2,270億㎥、1,020億㎥であり、オーストラリアの伸びが著しい。

 

2010年当時純輸入国であった米国、中国及びインドのその後の推移は対照的であり、米国の改善が顕著であるのに対して、中国とインド、特に中国は10年間で生産・消費ギャップが拡大している。米国は2010年に▲730億㎥であったギャップが年々縮小し2012年には中国、2014年にはインドをしのいだ。そして2017年にはついに生産が消費を上回るプラスに転じ、さらに2019年にはカナダを上回る生産余力のある国になり、2020年の生産・消費ギャップはプラス830億㎥に達した。一方の中国とインドは逆にギャップが年々拡大し、2020年は中国が▲1,370億㎥(生産1,940億㎥、消費3,310億㎥)、インドが▲360億㎥(生産240億㎥、消費600億㎥)であり、中国の生産・消費ギャップ拡大のスピードが速い。

 

(2010年に自給率89%だった米国と中国が2020年には110%と59%に二極化!)

(4-2-2)米国・中国・インドの自給率

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/4-2-G02.pdf参照)

 生産量を消費量で割った自給率について米国、中国及びインドの2010年以降の推移を見ると、まず2010年の自給率は中国と米国が89%で並んでおり、インドは80%であった。即ち米国と中国は1割を、インドは2割強を輸入に依存していたことになる。その後、中国とインドは年々自給率が低下し、2020年には中国は59%、インドは40%に下がっている。

 

これに対して米国は劇的に改善し、2017年には自給率100%を達成した。その後も生産の増加が消費の増加ペースを上回り、2020年には110%となり、天然ガスの輸出国に変身している。前項石油で触れた通り、米国の2020年の石油自給率は96%であり、石油と天然ガス双方について完全自給体制が確立したことになる。かつて米国は不足する石油と天然ガスを中東産油国とカナダ、ベネズエラに依存していたが、エネルギー安全保障の面からも米国は外国に依存しない強い国家に変身したと言えよう。

 

(2005年の自給率50%が昨年は102%に!)

(4-3)米国の石油と天然ガスの自給率(1970~2020年)

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/4-3-G01.pdf参照)

 1970年以降2020年までの半世紀にわたる米国の石油・天然ガス自給率の推移を見ると、50年前の自給率は石油が77%、天然ガスは99%であり、石油と天然ガスを併せた自給率は86%であった。この当時米国では天然ガスはほぼ自給体制であり、石油の2割強を輸入に依存していた。

 

 天然ガスについては1980年代後半まで自給率100%であったが、1990年以降消費の拡大に生産が追い付かず自給率は徐々に低下し、2005年には82%まで下がった。しかしその後はシェールガス開発が急発展して生産量が劇的に増加、2015年には自給率が100%を超え、2020年には110%に達している。天然ガスについては米国はすでに輸出国に転じたのである。

 

 同様に石油の自給率の推移を見ると1970年代後半には50%台後半に落ちている。その後1980年代半ばに67%まで回復したが、その後再び自給率は年々低下し、1994年に50%を割り2005年にはついに34%まで落ち込んでいる。即ち国内需要の3分の1しか賄えなかったことになる。しかし2010年以降はシェールガスと並びシェールオイルの生産が本格化し、自給率は急回復し、2000年には96%と完全自給にあと一歩まで来ている。

 

石油と天然ガスを併せた自給率で見ると、1970年は86%であった。最近まで消費の主流は石油であった。このため自給率は石油に近く、例えば2005年の自給率は石油34%、天然ガス82%、合計ベースの自給率は50%であった。しかし、最近では石油と天然ガスの自給率の差が無くなり2020年の自給率は石油96%、天然ガス110%、合計ベースでは102%となっている。

 

(続く)

 

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        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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データベース作成(イラン新内閣閣僚名簿)のお知らせ

2021-08-13 | データベース追加・更新

下記データベースを作成しましたのでご利用ください。

 

・イラン政府閣僚名簿(2021年8月13日現在)

 

 

 

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石油と中東のニュース(8月12日)

2021-08-13 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・米のOPEC+増産圧力で原油価格下落

(中東関連ニュース)

・イラン内閣改造、大統領が閣僚名簿を議会に提出

・イラン、上海協力機構のオブザーバーから正式メンバーに

・アフガニスタン:タリバン、6日間で8つの州都制圧

・スーダン、Bashir元大統領を国際刑事裁判所に身柄引き渡し決定

・チュニジア:アンナハダ党首、一転して大統領支持を表明

・イスラエル外相、モロッコを公式訪問

・カタール、駐サウジ大使を任命

・米議会、トルコのドローン輸出増加に警鐘

・レバノン、燃料補助廃止で4倍に急騰か

・イエメン、違法交換所閉鎖で通貨10%回復

・サウジ、ブルー水素開発で独と提携

 

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