イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

池田忍 「手仕事の帝国日本 :  民芸・手芸・農民美術の時代」読了

2022年03月14日 | 2022読書
ずっと、「民藝」という言葉が気になっていて、一度、民藝について書かれた本を読んでみようと思って検索していたらこの本が出てきた。
民藝運動というのは、柳宗悦らが日常の生活道具に潜んでいる美しさを見直そうではないかという運動である。僕は漠然と、何が知りたいというのでもないが、民藝について書かれた本を読んでみたかっただけであった。焦点が定まっていないのでよけいに何を読むべきかもわからなかったのだが、少なくともこの本は民藝について書かれたものではなかった。
時代としては、民芸運動が始まる前、この運動につながってゆく前段の時代背景を解説したものだった。

明治維新のあと、日本の芸術は輸出振興と大きく関わってきた。殖産興業のひとつとしてヨーロッパの万国博覧会へ美術品を出品し、外貨の獲得を目指したのだ。
現代の美術工芸とは江戸時代からの流れで、各地の大名や豪商のお抱え作家たちの流れが明治以降も続いたのだと思っていたが、今の美術工芸の世界は国によって作られたものであったというのは知らなかった。なので、明治の頃の展覧会や品評会というのはほぼすべてが官製の品評会だったそうだ。また、その目的のひとつとしてはタイトルにもなっているように、帝国主義を国民に植えつけるというものもあったそうだ。日本の伝統的な美術を特別なものとして押し上げることでナショナリズムを高揚させ、他国の美術との差別化し、また、沖縄やアイヌなどと大和人との差別化を図ったのである。
その頃には、美術、工芸、手芸というようなヒエラルキーができ上ってきた。こういったところでも権力争いは起こり、絵画や彫刻は重要視されたが、陶器や木工、手芸といったものは軽視されるようになっていったという。

そういう風潮に疑問を呈した作家たちが1880年代生まれの芸術家であったという。この本に登場には富本憲吉、藤井達吉、山本鼎の3名の芸術家が登場するが三人とも、そういった逸品ものの芸術作品ではなく、職人が作る工芸品、もしくは女性たちが生活のためにつくる手芸品に芸術性を見出そうとしたのである。
この頃には日本にも中産階級と言われる人たちが増え始め、こういった人たちがこぞって工芸品を買い始める。そこに目を付けたのが百貨店だったそうだ。自ら作家を育て、展示会を開催して客を集めるという手法が確立されていった。今では業者に丸投げだけれども当時はそういった産業への貢献があった。

そういった流れからもっと生活に根差した美しさを重要視しようと分かれてきたのが柳宗悦ら民藝運動であったというわけだ。

というのが大体の話であるが、ほぼ興味がない話なのでなかなか読み進めるのに苦労した。この三人の作家についても何の知識もないし、残念だが掘り下げて知ってみたいとも思わなかった。
結局、いろいろな人たちの権力、利権、名誉の争いみたいな話で、商売が絡むと純粋であるはずの芸術も純粋でなくなり、それに踊らされているのが民衆であったという結論だと思った。
今度は、もうちょっと手仕事をクローズアップした本を探して読んでみたいと思う。

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