イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「チェレンコフの眠り」読了

2022年03月22日 | 2022読書
一條次郎 「チェレンコフの眠り」読了

なんとも不思議な本だ。新聞の新刊書の広告に載っていたのだが、タイトルが面白いので読んでみた。

ざっとあらすじを書いてみると、表紙にも描かれているヒョウアザラシの「ヒョー」が主人公だ。
原発事故の放射線の影響と、プラスチックゴミによる海洋汚染が極端に進んでしまった街が舞台で、主人公のヒョーは、その街を牛耳るマフィアのボスに飼われている。
そのボスの名前がシベリアーリョ・ヘヘヘノヴィチ・チェレンコフという名前なのである。

突然、チェレンコフの屋敷に警官隊が乱入し、チェレンコフとその手下たちは全員殺される。チェレンコフの機転によってテーブルの下に逃れたヒョーはただひとり(一匹)生き残る。
そこから奇妙で不条理なヒヨーの生きるための冒険が始まるのである。
チェレンコフが贔屓にしていたレストラン、怪しい音楽プロデューサー、この街を経済面で牛耳る老婆、そこではく製にされてしまったネコ科の豹の「ヒョー」、そういった面々が登場する。
何の特技もなく、アザラシなのに泳ぐこともできないヒョーはこういった面々に時には助けられ、時には騙され、時には危険にさらされながらも生き延びようとする。そしてチェレンコフの亡霊もときに彼を励ますのである。

ファンタジーのようでもあるが、異常に環境汚染が進んだ世界や、言葉をしゃべるアンモナイト、三葉虫の登場、もちろんアザラシも言葉をしゃべるという世界はちょっと普通ではないし、デストピア的な環境はファンタジーに似合わない。一体この物語を通して著者はいったい何を表現したいのかということがよくわからないというのは純文学的でもあるが動物がしゃべるという段階で純文学ではなさそうだ。そういう意味では著者が独自で持っている世界観なのかもしれない。ほかの著書を調べてみたが、やはり同じく言葉をしゃべる動物が不条理な世界を生きるという世界を描いているようだ。

それでもこの作品を通して著者が語りたかったことを想像すると、この舞台、放射能に汚染された街というのはあきらかに福島の原発周辺を連想させている。チェレンコフという言葉自体も原子力発電所の燃料棒を入れたプールから発せられる光を連想する。また、海面を覆いつくすプラスチックゴミは昨今の環境問題からのヒントであろう。
『野生動物の最大の死因は人間だ。経済活動ってやつのおかげで地球はぼろぼろなのさ。地球に蔓延してる人間もだ。天災のほとんどは人災だしな。自分で自分の首を絞めて金儲けしてるんだな。そのうち金持ちだけで火星にでもひっこすんじゃないのか。ほんきでそうかんがんがえてそうで洒落にもならんが。この世界に人間なんて産み落としたのが運のつきだったな。』
この1節が、もう、どうにもならない地球環境とそれを引き起こした人間のエゴを憂いているように見える。きっとその他の作品もこの1節がベースになっているので主人公が言葉をしゃべる動物となっているのだろう。
そんな世界で、チェレンコフは魂だけになりながらも、この世に残してきたペットのことを案じているのだ。
ここまでのことを合わせて考えると、あの地震と津波で亡くなった人たちの魂は生き残った人たちの身の安全を今でも気にかけ続けている。しかし、この世はどんどん住みづらい環境に向かい、それでもしたたかに生きてくれと願うのだ。
というようなことだろうか・・。

まあ、じつはもっと奥深い意味が隠されているには違いないけれども、僕はそこまで解析できないでいる・・。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする