焼き物では、急須を始め、湯呑茶碗や茶碗蒸し用の器、茶道の水指、重箱、更には骨壺など
で、同じ素材の蓋の付いた物があります。(同じ素材の蓋を共蓋と言います)。
蓋物のトラブルとは、主に蓋と本体(器)がピッタリ重ね合わない状態です。
最悪の場合、蓋が出来ない場合すら珍しくありません。理想的には、どの位置でも蓋が出来る
事ですが、ある一か所のみでしか合わない事も多いです。蓋と本体の隙間が合わず、ガタガタ
する事も、稀ではありません。これらの原因や対策などに付いて述べたいと思います。
更に、蓋の合わせ方にも幾つかの方法がありますので、どの方法を採ったら良いかものべます
1) 本体と蓋を作る時は、時間差が生じます。
一般には本体(器側)を先に轆轤挽きした後、蓋を制作する事が多いです。
素地は、轆轤挽直後から乾燥収縮が始まります。それ故、蓋を轆轤挽時には、本体はかな
縮んでいますので、この際の口径を測定し一致させても、完成時の蓋と本体の直径は合い
ません。即ち本体を轆轤挽した直後の口径を測定し、その値を基に蓋の口径を決なくては
いけません。口径を測るには、物差し等も有りますが、一般にはコンパス状の内パス、
外パスを使用します。
2) 蓋と本体の隙間に付いて。
単に器の上に蓋を置く構造であれば、隙間(クリアランス)を考慮する必要は有りません。
しかし実際には、蓋が横に滑らない様に、何らかの引っ掛かりを付ける必要があります。
引っ掛かりを器側に設ける場合と蓋側に設ける場合もあります。
この器と蓋との隙間が問題になります。隙間が小さいと蓋は閉まりませんし、広過ぎると
ガタガタしてしまいます。
3) 陶芸で良く使われる蓋の種類と名称。
蓋を受け止める本体部分を蓋受けといいます。勿論蓋受け部分の無い器も存在しまあす
蓋の種類には以下の物があります。
① 載せ(ノセ)蓋
平板な蓋で、蓋自体や器側にも蓋を受け止め、移動を止める突起物は有りません。
例えば、群馬県の碓氷峠の横川にある、峠の釜めしに付いている蓋です。
② 浅蓋(アサブタ)と深蓋(フカブタ)。
器と同じ外形で、器本体より蓋の直径が大きく、本体に被さる状態の物です。
蓋の内径が、器の外形よりも若干大きく、蓋の内側が器の外形に被さります。
被さる長さが短い蓋を浅蓋と言い、器側より蓋側が長い物を深蓋といいます。
又浅蓋を被せ蓋(カブセブ)とも言います。
③ 印籠(インロウ)蓋
一番多く見られる蓋の形状で、蓋側又は器側、更には両方の合わせ目に凹凸がある形状
の蓋です。印籠蓋にも幾つかの種類があります。
ⅰ) 送り印籠: 器側の口縁の幅(肉厚)を二分し、その外側を高くし、内側を
低くして段差を設けます。蓋側これと反対に外側を低く、内側を高くしてしっかり
蓋と器が噛合様にします。
ⅱ) 逆印籠: 上記送り印籠の蓋側と器側の凹凸が逆に成っている形状です。
何れも、凹凸は轆轤の削り作業で成形します。
ⅲ) 付け印籠:削り作業ではなく、器本体又は蓋本体の内側に円形の物を張り付け
凹凸を作る方法です。口縁の肉厚が薄く削りが出来ない場合に行います。
即ち、器側(又は蓋側)の内側に器より背の高い同型の円筒を張り付けて、内側が
高く、外側の低い段差を設ける物です。
④ 落とし蓋。
器側の口縁より一段低い位置に蓋受け部分を設け、底に蓋を置く方法です。
当然、蓋の直径は器側の直径より小さくいます。急須の蓋や水指の蓋等で多く見る
事が有ります。食器等に使用うと、口縁の内側の出っ張りが邪魔になり易いです。
尚、内側の出っ張りを無くす方法として、①で述べた載せ蓋の内側に器の内径より
やや小さい円形の突起物を設け、蓋の滑りを止める方法もあります。
⑤ 懸子(掛け子)
蓋が二重になる物です。内蓋と外蓋が別々に成ります。
緑茶を入れる茶筒がこの構造です。内蓋は落とし蓋で外蓋は浅蓋に成っています。
⑥ その他の蓋
ⅰ) 台指(ダイサシ):本体(器)の高さが低く、蓋が深い形状で、器の中央部分
を高くして、蓋の内側に合わせます。
ⅱ) 桟(サン)蓋
焼き物では余り見ませんが、桐箱などで見られる蓋です。
四方桟と下駄桟(二方桟):蓋の内側に四角又は二本の桟を設けた物です。
この桟が器の内側に当たり、蓋の座りを良くします。
以下次回に続きます。