鼎子堂(Teishi-Do)

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『夕焼けポスト:ドリアン助川・著』

2012-01-19 22:53:14 | Weblog
お天気下り坂。灰色の曇り空。


暮れなずむ夕暮れ時の川辺にたったひとりの『あなた』の前に姿を現すレトロなポスト。
僕とか私・・・ではなくて、語られるのは、『あなた』。
それは、ドリアン助川さんが、ご自分自身に問うているのでしょうか?

この物語に登場する『あなた』は、妻と娘に先立たれて、後悔ばかりの日を送る50歳前後の男性。もとテレビ局のディレクターだったけれど、今は、『夕焼けポスト』の管理人。
管理人の仕事は、時空を超えて夕焼けポストに届く『お悩み』に対する答えを手紙すること。

ゴミ捨て場をネグラにしなければならなかった子供の頃のチャーリー・チャップリン、フェラーリに乗り、嫁を貰うことを夢見ている自称二枚目で、二代目の鮨屋、死んでいく犬にありがとうを伝える方法を知りたがる少年、一人ぼっちで、老後を生きることなって、寂しさを犬を飼うことで紛らわせようとするけれど、自分の寿命のほうが犬より短い可能性が高くて、犬を飼うのを戸惑う元社長、病気がちで学歴もなかった青年の頃のリンゴ・スター、『昆虫記』を上梓する以前のアンリ・ファーブルの孤独、医師を目指すインドの洗濯屋さんの少年、殺してしまった女性の冥福を祈り続ける犯罪者、震災と原発事故の問題を抱える被災地の公務員、そして・・・自分の娘と同じ障害をもった女の子からの手紙・・・。

10通の手紙に『あなた』は、答えられる限りの返事を書き続けます。
もう、この夕焼けポストの管理人を辞めようと思い、二度目の人の国(たぶんインドでしょう)へ旅立つ『あなた』。
川の街で、15年前に出会い、そして、夕焼けポストの管理人になることへのきっかけを作った少年は、同じ姿で、『あなた』の前に現れます。
殺した女の冥福を祈り続ける犯罪者は、『あなた』の前世の姿だと・・・。

この少年は、何千年も沈む夕日を眺めてきたと語ります。少年は、観世音菩薩なのでしょうか?
儚いのは、夕焼けでなくて、人の命なのだと・・・。
夕焼けポストの管理人になり、人々の悩みに答えることによって、『あなた』は、救われるでしょうと・・・。おだやかに語りかけるだけ。

最近、一度捨てた?はずの芸名で、また著作を始めたドリアン助川さん。
明川哲也ではなく、ドリアン助川が、描く世界・・・。
少し前の『大丈夫、生きて行けるよ、そして、かなり前の著作『食べる-7通の手紙』に続く連作のような作品。

この人の描く世界は、とても優しい。そして、限りなく・・・優しい。