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友々素敵

人はなぜ生きるのか。それは生きているから。生きていることは素敵なことなのです。

田中慎弥さんと島津佑子さん

2017年08月30日 17時37分18秒 | Weblog

  パソコンが動かない間、やることのないまま2冊の小説を読んだ。1つは田中慎弥さんの『美しい国への旅』で、もう1つは津島佑子さんの『狩りの時代』。私は中学の時から書き続けてきた(と言いながら実際は20代が抜けているが)日記が18冊ある。子どもたちには見せられないものだから、まったく知らない人で何かの役に立ちそうな小説家に送るのが一番と勝手に思い、それで田中慎弥さんと決めた。

 理由は簡単で、芥川賞の受賞の時、酔っ払っていたのか、そういう性格なのか(性格ならいっそう興味深いが)、「もらってやる」と発言していたし、石原慎太郎さんのことも「屁のカッパ」という態度だったので、とても印象深かった。早速、受賞作品は読んだが、父・母そして女の関係が面白く描かれていた。けれど、それ以後なかなか作品が出ていないと思っていた。日記を田中慎弥さんに送りたいと文芸春秋に勤める子を持つ知人に手紙を出したら、「作品は出ている」と指摘され、書店に頼んで購入したのが『美しい国への旅』だった。

 読んでちょっと驚いた。受賞作となった『共食い』にあった人間観察のないFSものだった。「美しい国」とは安倍首相の言葉からの連想だろうが、それは核爆発で汚れた世界で、その司令塔となったのはインポの男で自分の体を改造し、世界を支配するという奇妙な構想であり、ひとりの少年がこの司令塔を爆破するというマンガである。女と接して勃起しないことにこれほどこだわるのも田中慎弥さんが1972年生まれと若いためだろう。70歳を過ぎるともうそんなことも言っておれなくなる。

 島津佑子さんは太宰治の娘だ。幼い時から父親がいなかったから、父親のことを聞かれるのが一番嫌だったとどこかで話していた。母親に「どうして死んだの?」と問うと、一時おいて「心臓が止まったから」と言われ、それ以上は聞けなかったそうだ。異母妹がいると知った時は、父親をなじる気持ちより、「もっといろいろ出てくるのかしら」と思ったともいう。この寛容さは『狩りの時代』に出てくる女性たちにも共通している。主人公の女性は父を早くに亡くし、障害のある兄も亡くす。子どものころ、いとこたちと遊んでいた時、「フテキテカクシャ」と囁かれたことが脳裏から離れず、だれが何のためにと追い求めていく物語だ。島津佑子さんの最後の作品である。

 差別が人の原罪なのかも知れない。そして紛れもなく現在は、差別が横行している『狩りの時代』である。

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