◇北海道警シリーズ第3作「警官の紋章」佐々木譲著
2008.12角川春樹事務所刊
図書館にリクエストしていた「警官の紋章」が手に入って、一気に読んだ。最新
作はと言えば2009年2月発表の「制服捜査」であるが、「笑う警官」、「警察庁か
ら来た男」に次ぐ第三作。道警シリーズものは見逃すわけにはいかない。
本書は書き下ろしである。
本作の中心テーマは、2年前自殺した父(当時生活安全部企画課長、事件当
時は薬物対策課長)の死が、実は上司の圧力で法廷での嘘の証言を強いられ、
それを回避するための自殺であった。
それを知った息子の日比野巡査は、当時の上司(今は内閣情報官)への復讐
に走り、サミット対象のテロ対策との絡みで道警を右往左往させる線。
一方にもう一つの流れがある。第1作以来一匹狼的存在で独特の動きをする
佐伯警部補は、前々作品の中心事件であった「覚醒剤密輸摘発事件」に疑問を
抱き、独自の解明捜査を続け、これが他の司法機関まで巻き込んだでっち上げ
事件であったことを明らかにしていく。この二つの線が交錯する中で結局日比野
巡査は救われ、佐伯は大々的なでっち上げ事件の動かぬ証拠をつかみ、立件
へと動き出す。
ときはあたかも「洞爺湖サミット」開催準備中。大がかりな警備体制の中に、津
久井巡査部長や小島百合巡査も取り込まれていく。そして上野巡査は、互いに
心憎からず思い合っている佐伯からほんの少しの間心揺らめき、大臣警護に当
たるちょっとかっこいい酒井警部補(警視庁警護課)に傾いたりする(ところが
彼は一緒に東京から来た大臣警護の女性警護官と割りない仲ということがわ
る・・・かわいそー)が、最後はまた元の中に戻ることで安心したりする。
昔吾輩と同じ職場で働いたことがある北海道知事が実名で登場したりして、お
やおやと思う。「小柄な女性知事」とまで書いて、それでは登場するサミット担当
の女性大臣はホントは誰のこと?と実在の女性大臣をあれこれ思い浮かべたり
する。地名や人名は実在のまま書くと差しさわりがあるため、多くは仮名・架空
のものとするのが習い。実在人物名が出るとノンフィクションめいて迫真性が増すが、
がその境界はどの辺にあるのか。
道警シリーズはまだまだ続編がある予感がする。楽しみである。
◎その他最近読んだ本
*「愛こそすべて、と愚か者は言った」 沢木冬吾著 角川文庫 2008.8刊
*「アフター・ダーク」 ジム・トンプソン著 三川基好訳 扶桑社2001.10刊
*「ポップ・1280」 ジム・トンプソン著 三川基好訳 扶桑社 2000.12刊
(以上この項終わり)