◇ 『絶望の歌を唄え』著者:堂場瞬一 2017.12 角川春樹事務所 刊
堂場瞬一久々の書下ろしハードボイルド・ミステリー。
しかしテロ事件を取り込んだにしては盛り上がりに欠けて期待ほどではなかった。主人公の安宅
は、気は優しいが腕力があるという、私立探偵らしい活躍がいつまで待っても出てこない。イライ
ラする。いつまでも元警察官の正義感や気遣いばかりしていてるんじゃねーよ(ちこちゃんばり)。
主人公の安宅は元警察官。10年前に退職し、神田でコーヒー店「フリーバード」を営んでいる。
10年前。安宅は警察庁から国連選挙監視委員会の一員として「ある国」に派遣されていた。(な
んとなくカンボジアっぽいが、それはどこであってもいい)その「ある国」に田澤直人もいた。
友人付き合いをしている同世代の田澤直人はルポライター。共に70年代のロックを愛し、レアな
海賊版を手に入れては自慢しあっているような間柄。
そんな中、派遣先でイスラム過激派によるそんな自爆テロがあり、安宅は危うく命を失いかけたが、
一緒にいた田澤の助けで命拾いをした。ただ田澤はどさくさの中行方不明になった。
安宅は田澤を見つけられなかったことでずっと後ろめたさを感じている。
ある夜、神田で自動車を使った爆弾テロ騒ぎが起きる。そしてテロ集団「聖戦の兵士」が犯行声明
を出した。安宅は10年前のテロ事件に思いを馳せる。
安宅の店に得体のしれない女が現れる。不審に思った安宅は友人の弁護士疋田に正体を探らせるが
名前はおろか住所も、電話もすべて偽物だった。
そして二度目の爆発テロが発生、一般人の2人が死ぬ。まるで同じじゃないか「あの国」のテロと。
その夜「フリーバード」に再びあの女が現れた。
大体予想はしていたが、そんなところに謎の女が田澤を伴って再び会現れる。田澤は偽造パスポート
と整形手術でまんまと日本に再入国し、「聖戦の兵士」の手引き、テロの段取りをしていたというので
ある。
謎の女は田澤のシンパで、田澤のために安宅から警察の捜査情報を探ろうとしていたというとことは
分かったが、田澤がテロ集団に加担することになった経緯が薄弱で締まらないし、結末もありきたりで
落胆した。
ただ「フリーバード」でバイトをしている明日香という高2の姪に存在感があって面白かった。普段
言動がかったるい感じだったのに、安宅が拳銃で狙われるという危機一髪のところで防犯ブザーのボタ
ンを押して警察に連絡するなど機敏な働きをした。
(以上この項終わり)