◇『さよならの手口』
著者: 若竹 七海 2014.11 文芸春秋社 刊 (文春文庫)
女性私立探偵葉村晶シリーズ。およそ13年ぶりの長編作品である。
葉村探偵はアラフォーになった。長谷川探偵事務所のフリーの調査員
として活躍してきたが、半年ほど前に事務所が店仕舞い。当面「MURD
ERBEAR BOOKSHOP」というミステリー専門書店のアルバイトとして働
いている。
新刊本と古書と両方扱うのであるが、ある日遺品整理人の真島氏から
古本が多数あり、出物が期待できるということで遺品整理を手伝ってい
るうちに押し入れの床が抜けて床下に転落、あろうことか白骨死体に遭
遇する羽目に。
肋骨などに怪我をして入院、同じ病室の元スター女優の芦原吹雪とい
う女性から20年前に行方不明になった娘志緒利を探してもらいたいと
依頼を受けることになった。事実上探偵業再開である。
芦原吹雪はシングルマザー。志緒利の父親は元代議士の相馬大門か大
物俳優の安斎喬太郎に違いないと騒がれた。
20年前志緒利の失踪当時調査を依頼された岩郷克仁という探偵はな
ぜか行方不明になっている。
失踪人探しは手馴れている葉村は、手近の相馬と岩郷、芦原の姪や芦
原家のお手伝い、ばあや、マネジャーの山本の行方から調査を始めるが、
対象者が亡くなっていたり、余計な人が介入してきたり、別の事件が起
きてそちらに時間を取られたりと、なかなか行方がつかめない。おまけ
に書店に現れたミステリー愛好家、倉嶋舞美という得体のしれない女性
が纏わりついて事態をかき回し複雑にする。
一応サスペンス小説となるが、冒頭の白骨死体の方は即刻解決したも
のの、志緒利の失踪原因は何か、父親は誰か、志緒利のはとこ花はなぜ
殺されたのかなどの謎をめぐっていくつもの秘密や枝葉の犯罪が出没す
る。したがって登場人物も十指に余るどころか2・30人に及ぶ。
晶はこれら関係者をある時は脅し、ある時は懐柔し、言葉巧みに真相
に迫るのであるが、独特のユーモアを忘れない。切れ味の良い会話、洒
脱なストーリー運び、パンチのきいたやりとりの爽やかさがたまらない。
28章で晶は箱根ロマンスカーの中で山本博喜に首を絞められ置き去りに
される。そして吹雪の入院中の病院で心臓震盪を起こす。まずい、ひじ
ょーにまずい。でもちゃんと結果を出すのが晶の本領。
次は『錆びた滑車』(2018年)に取り掛かる予定。
(以上この項終わり)