◇『錆びた滑車』
著者:若 竹 七海 2018.8 文芸春秋社 刊 (文春文庫)
羽村晶最新作。羽村晶はミステリー専門書店でアルバイトをしているが、店
は週3日しか開かないのでこれでは食っていけない。オーナー店長の富山さんが
「ミステリ書店に探偵社がついていたら面白いよね」と言って、ノリで作った
(白熊探偵社)の探偵となった。依頼人はめったに来ないが、元契約探偵社の
「東都総合リサーチ」の桜井さんから「葉村、ちょっといいか。ヒマだろ?」
と電話が入った。高齢女性の行動確認で30万円払うというおいしい話。これが
とんだ下請け話で、大怪我はするは火事で焼け出されるは、麻薬売買グループ
の捜査の片棒を担ぐ羽目になる、揚句の果て関係者の一人に包丁で殺されかか
り、危うく九死に一生を得たおまけつきだった。
実は大事件の発端は、マルタイ(石和梅子)が乗り込んだアパートに住んで
いたヒロトという青年から、自分が交通事故(高齢者の操車ミス)に遭ったバ
ス停になぜ父親(この事故で死亡)といたのか調べてほしいと頼まれたからで
ある。彼は事故で記憶障害になっていた。
徹底して調べるのが身上の晶さん。とうとう別筋の犯人を刺激し「殺し」を
誘発してしまった。
そして本筋の犯人は別にいた。殺人死体の骨を標本にした悪魔のような女。
ヒロトの近隣の住人など、いろんな素性の人間が登場する。晶はこれに対抗
し丁々発止とやり合うのだが、意外なことに彼女が暴力性を持っていたことを
知った(本人の告白)。「自分の中に湧き上がった暴力衝動にめまいを覚えな
がら、私はスツールから滑り降りた」(357p)
『錆びた滑車』はサン=テグジュペリ「小さな王子さま」から採ったよう
である。
ぼくもまた星空をながめるんだ
全部の星が錆びた滑車のついた井戸になるよ。
全部の星がぼくに飲み水を注いでくれるに違いない……
(以上この項終わり)