改憲草案Q&Aでは、現行憲法前文に「基本的人権の尊重がありません」と指摘しています。それでは改憲草案ではどのように書かれているでしょうか。「日本国民は・・基本的人権を尊重する」と書かれています。「憲法は、権力を縛るものである」という立憲主義の精神からすれば、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」として、権力からも守られていることを明確にしています。もっといえば基本的人権を尊重する義務は権力を持つ国の側にあるのです。それが立憲主義の精神です。
ところが改憲草案全体につら抜いていますが、現行憲法の主語は「日本国民は」「われらは」であるのに対して、改憲草案は冒頭から「日本国は」と主語が変わっています。Q&Aでは「立憲主義の考え方を何ら否定するものではありません」「権力分立の構造は変わりありません」と、立憲主義の考え方を三権分立の問題とすり替えています。
それでは現行憲法には、本当に基本的人権が書かれていないと言えるのでしょうか。前回も述べましたが「平和的生存権」は、日本国民だけではない、全世界の国民に有する権利としています。「平和的生存権」は、基本的人権の基盤的な権利と言えます。
この他にも改憲草案24条(家族、婚姻等に関する基本原則)「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」と新たに付け加えられていますが、それを象徴する「家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。」と書き込んでいます。互いに助け合うという一般的な概念は否定しませんが、わざわざ前文に書き、条文として新たに書き起こす意味を考えざるを得ません。生活保護や介護などを、家族の責任に転嫁する根拠とすることもできます。また、「互いに助け合わなければならない」と強制すれば内心の自由を奪うものともいえます。
「われわれは、・・活力ある経済活動を通じて国を成長させる」と、国民に経済活動を強制し、経済活動に従事できない国民を排除する意図が見え隠れしています。
現行憲法の最後に「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」とありますが、私たちは一度でもどこかでこの「誓い」をしたことがあるでしょうか。また、「国家の名誉にかけて、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成する」ための努力をしているだろうか考えさせられます。