5月8日、松本市勤労会館2F第4会議室で第8回憲法ゼミが行われ、18人が出席しました。
■第8章 地方自治 第92条~97条
・レポーター、参加者の問題提起
改憲92条地方自治の本旨とはここに書かれていることか?
改憲93条3項国と地方が協力する義務、地方自治体の相互協力義務規定は必要か?
改憲94条で首長や議員の選挙権を「日本国籍を有するもの」と規定していることはおかしいのでは。
改憲96条地方自治体の財源について、安倍政権は国の政策を実施する自治体には優遇措置を行い、そわない自治体にはペナルティーがある。
成沢孝人先生のコメント
戦後革新自治体が憲法を定着させる大きな役割を担った。それを大きく反転させる目的がある。住民に義務を負わせている。地方自治の条項は少ないが解釈で広げてきた。地方自治の本旨とは何かということで団体自治と住民自治と言われてきた。地方自治体の自立が団体自治で国の下部機関ではない。民主的に運営しなければならないとしたのが住民自治。地方自治法の規定がレファレンダム(国民投票・住民投票)やリコールなど直接民主主義的な規定があり、それを活かしてきた。最近はずいぶん違ってきましたが、昔は地方自治体は民主主義の学校だと言われていた。それを自民党改憲草案ではガチガチにしばることになる。沖縄基地問題は国の問題だから地方は口を出すなと言ってきそう。でも住民の権利の問題だから沖縄はがんばっている。それにしても国の論理で辺野古にしても厳しい状況にある、それを明文化することになる。92条も怪しいし、93条の3項も怪しい。
94条については、在日韓国朝鮮人の皆さんが公務員になれる権利と選挙権について、議論の蓄積がある。公務員にはなっているが管理職にはなれず判例も追認している。選挙権は90年代リベラルな考え方が支配した時代があって、国政は外国人参政権はないが、地方は認めてもいいという見解が憲法学でも広がった。ドイツでトルコからの移民に選挙権を認めた。憲法学で住民と国民は違うという論理で、現行憲法は住民と書いてあるから地方においては外国人に選挙権を与えていいということが通説となっている。最高裁判決で、永住者等地方自治体と密接に関連するような人たちについては法律で選挙権を与えても憲法違反ではないとした。それが自民党の人たちは気にくわないのだろう。ここではっきり明文化するということ。
96条も怪しい。「地方自治体の経費は条例の定めるところにより課する地方税・・・」で、法律ではなく条例と言っている、基本的には自前でやれと言っている。足りなかったら国が「必要な財政上措置を講じる」。
97条については現行においても適応事例は少ない。97条で明文化しているような場合でないと地方自治特別立法とみなされないで住民投票していない。現行でもせばまった運用がされている。
(質問)条例は幅広い裁量があるのか?
(成沢)基本的には条例は自由につくっていいはず。法律と条令がぶつかるときには、形式的に考えるのではなく、法律と条例の目的が異なる場合、法律の執行に害悪を与えない場合条例をつくっていい。対象が異なり目的が一緒の場合です。目的が重なっている場合、法律の文言から考えて法律が条例の規制を認めない趣旨かどうか法律を見て判断をするという判例が出ている。横出し、上乗せが当初はダメだと言われていたが判例上認められた。形式的にダメというのではなく、そこは裁判所が判断して、法律がさらに、規制を許容するかどうかを、地方自治体がより制限をしたり、より権利を保障していくような規制について法律がそれを許しているか、いないかを裁判所が判断するという判例。基本的に地方自治体の権限に属するということでいえば、何でも自由に決められる。地方自治体の機関委任事務がなくなり、法定受託事務になった。本来、国が行うべき事務を地方自治体に任せたというかたちをとっているので、国が関与することが出来る。争いがあった時は国地方係争委員会が判断して、場合によっては訴訟になる仕組みができている。機関委任事務はなくなったが地方自治体が自由になったかといえば、そうではない。国の関与について異論がある場合には最終的には訴訟となる。国の関与が関係なければ人権との関係はあるが自由に条例はつくれる。喫煙も幸福追求権の一環であると判例上いわれているが、禁煙条例をつくることは問題ない。人権の問題があるので適用範囲は限られると思うが。家の中で吸うこともだめだという条例なら違憲になる。
(質問)空き家対策条例は私権を制限する。
(成澤)条例を活用して地方自治を活性化させることは本来やっていいこと。雇用促進条例だってできます。
(質問)96条で地方税の税率が地方自治体によって異なることはおかしいので条例制定にはなじまないという見解であったはずだ。
(成沢)今は国が法律をつくっている。それをなくして、いったいどうするんですかね。体力のないところは潰れて広域化していく。税率が違ってくるのも競争の一環だということになるのでは。税率は安くてもほかの負担が増えたらそれはそれで大変だ。自主財源でやれってことです。国は代わりに税金を取らないということ。
■第9章 緊急事態 第98条~99条
・レポーター、参加者の問題提起
改憲98条 緊急事態宣言は内閣が自分で宣言できてしまう。国会の承認は与党が多数を占めているのだから当然スルーされる。
改憲99条1項 国会は関係ない。今は安保法制など国会で議論されたが緊急事態宣言後は内閣が自分で勝手にやれる。
3項 人権が侵害されること、財産を取り上げて保障しないことができる。
4項 与党が議会の多数を占める体制が維持され、民意が十分に反映されないまま内閣による体制整備がされていく。
・緊急事態条項そのものが憲法の趣旨に反する。
成沢孝人先生のコメント
緊急事態の要件が甘い。ふつうは国会の多数決が必要。こんな甘い認定でこれだけの権限を内閣総理大臣に与えるということはありえない。9条があるおかげで、有事法制安保法制はあるが、最終的に国民に言うことを聞かせることはできない。働いている人は業務命令でやらなければならないが、どうしてもいやだったら仕事を止めるという選択肢をもっている。しかし普通の人に命令や義務を課すことはできない。協力する義務があると書いてあるが、協力をしなかったからといって逮捕はできない。だから、そのために緊急事態条項をつくるのではないか。内乱はともかく大規模災害はためにするものだ。東日本大震災ではいろんな情報が出た。緊急事態宣言が出されれば情報統制も行われたかもしれない。あのとき緊急事態条項があれば、もっと人の命を救えたでしょうか?そんなことはない。認定の要件が甘すぎる上に緊急勅令のように国会すっ飛ばして法律をつくれるようにする。98条の4項、衆議院の優越がある。100日、100日で、再更新でずっといける。非常に恐ろしい条文だ。日本国民がこの条文にイエスというときは万歳するしかない。さすがに、これはひどすぎると思うのではないか。
・安倍首相の憲法9条1項2項を残し3項に自衛隊を位置づける発言について
(成沢)今回の提案は自分の任期中にできることとして本気の提案だ。実現可能性が高い。自民党改憲草案は実現不可能なことがいっぱいあるが、9条3項はありうる。これにどう抵抗していくか早急に考えなければならない。安保法制の違憲隠しだ。自衛隊が合憲だったらつくる必要はない。憲法学者を黙らせるための改憲?おかしな話だ。自衛隊員の命を守ろうとしているのは誰なのか、南スーダンの駆けつけ警護について憲法学者100人集めて「すぐ帰ってこい」と声明出した。自衛隊員の命を守れと我々憲法学者がしている。違憲な状況があるから自衛隊員の命が守られている。
安保法制ができたので、目的は達成されている。安保法制が違憲だと言われるとご破算になる。自衛隊の存在を明記するということになれば、安保法制は合憲になる。自衛隊が違憲であるかもしれないということを前提としているからこそ、個別的自衛権であっても限定的な例外中の例外として認めるということが以前の憲法解釈だった。それが崩れる。必要最小限度の実力組織としての自衛隊が明記されるわけだから、攻撃された時だけの例外としての自衛権は通用しなくなる。安保法が違憲であるということの論理を崩すための提案だ。
(文責:中川博司)
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